悲しい小鳥|愛していたのは、強さではなく、あなたの中の小さな悲しみだった。ユングの「影」をめぐる言葉と、ミルクに溶けていくオルゾラテの優しさが、傷を分かち合うという愛のかたちを、そっと照らし出す。
誰かを愛するということは、
その人の一番きれいな部分だけを
愛することではないのかもしれない。
そう思わせてくれる、
一篇の詩について。
à partir du 4 octobre 2026
一かけらの今 a l’honneur de soutenir
悲しい小鳥

悲しみを教えて
私もあなたと同じように
泣いてた夜があったから
さよならを教えて
私があなたを愛していたのは
あなたの中の悲しい小鳥
Poetry by ある光
影のない光は存在しない。そして、不完全さのない心の全体性も、存在しない
一読すると、別れの詩に見える。
けれどよく読むと、
これは単なる喪失の詩ではなく、
“何を愛していたのか”を、彼女自身が静かに
確かめ直している詩なのだと思う。
「私があなたを愛していたのは、あなたの中の悲しい小鳥」
——彼女が愛していたのは、
相手の強さや完璧さではなく、
相手の中にある、
傷つきやすく、隠された部分だった。
スイスの精神科医であり、
分析心理学の創始者でもあるカール・グスタフ・ユングは、
こんな言葉を残している。
“There is no light without shadow and no psychic wholeness without imperfection.”
— 影のない光は存在しない。そして、不完全さのない心の全体性も、存在しない。
「私もあなたと同じように、泣いてた夜があったから」
という一節には、
彼女の深い共感と、対等な痛みがある。
これは”かわいそうだから愛した”のではなく、
“自分も同じ場所にいたことがあるから、わかる”という、
対等な目線での愛情だったのだと思う。
そして「さよならを教えて」という言葉には、
別れさえも、相手から何かを”教えてもらう”という、
最後まで続く信頼のようなものが滲んでいる。
どこへ流れていこうと、ぼくはもう、ひとりではないのだから
凪良ゆう『流浪の月』(2020年本屋大賞受賞作)を思い出す。
孤独を抱えた少女・更紗と、
同じく孤独を抱える青年・文。
二人の出会いは、世間からは「誘拐事件」として断罪され、
引き裂かれてしまう。
けれど15年の時を経て再会した二人は、
互いの”ちゃんとした理由”を、
世間に説明できないまま、
それでもそばにいることを選んでいく。
物語を通して繰り返されるのは、
「不幸な彼らが不幸ではないのは、
きっとお互いがそれぞれの傷を分かり合えるほど、
傷ついているから」
という視点。
物語は
「どこへ流れていこうと、ぼくはもう、ひとりではないのだから」
という文の独白で幕を閉じる。
「私もあなたと同じように、泣いてた夜があったから」
という詩の一節と、
この小説の根底にある
“傷の分かち合い”は、
驚くほど同じ場所に立っている。
世間的な正しさでは測れない、
二人だけの理解のかたちなのだと思う。
悲しみがあったからこそ、ありのままのあなたを愛せた
彼女が愛した
「あなたの中の悲しい小鳥」も、
排除すべきものではなく、
その人を”その人たらしめている”、
かけがえのない一部だったのだと思う。
“相手の悲しみに惹かれた自分”を、
共依存的だとか、
重たい愛し方だったと否定する必要はどこにもない。
誰かの傷ついた部分を、
そのまま深く愛せたということ自体が、
一つの誠実な愛のかたちだったのだから。
fin d’un début
ある始まりの終わり
hitokakeranoima seleção
Françoise Hardy — “Des ronds dans l’eau”
hitokakeranoima seleção
Françoise Hardy — “Des ronds dans l’eau”

“こんな午後”に聞きたい一曲。フランソワーズ・アルディの「Des Ronds Dans L’eau」(冒頭のYouTubeから聴いてみてね)。
天国から響いてくるかのようなヴィブラフォンの音色。絹のレースのようなストリングス。彼女の少し乾いた、けれど芯のある歌声。豪華なファルセットや、熱いソウルがあるわけじゃない。ただ静かに、森の奥深くのロッジで暖炉の火を見つめているような曲。
歌われているのは、「愛はどこへ行ってしまったの?」という問い。かつて「水の輪」を作ったあなた…気がつけばその名前さえ思い出せなくなっている——そんな、手放さざるを得なかった時間への、淡い喪失感が綴られている。
曲の中にたびたび登場する「水の輪」というフレーズは、遠い世界に飛び立ったあなたに向けて、「私は今もここにいるわ」と呼びかける。楽しかったあの頃、幼い記憶の断片も、もう取り戻せない。
1967年リリースのアルバム『Ma jeunesse fout le camp…』収録曲。
ユーミン(松任谷由実、当時は荒井由実)が1974年に発売したアルバム「MISSLIM」の中で、「私のフランソワーズ」と歌っているのは、まぎれもない彼女のこと。
フランスのシャンソン、イェイェ(ye-ye)ムーブメントが好きな人、だけじゃなくて、Margo Guryan や、Linda Perhacs etc. が好きな人は、ぜひチェックしてね。
作詞は俳優としても知られたピエール・バルー。「VIVRE〜生きる」は、LP盤としても再発されているし、彼の設立したレーベルのコンピレーション『サラヴァ・フォー・カフェ・アプレミディ』も入手可能だから、知っている人は多いのではないかしら。彼のアルバムも、ぜひ聴いてみてほしい。
戻らない時間を、それでも愛おしく振り返るという感覚、「悲しい小鳥」という詩の持つ切なさと、静かに重なる。
“On n’efface pas ce qu’on a aimé, même quand ça s’en va.”
— 愛したものは、去っていくときでさえ、消し去ることはできない。
A saudade também tem melodia.
オルゾラテ(Orzo Latte)の優しさに包まれる
“こんな夜”におすすめのドリンクを紹介。

オルゾラテは、
イタリアで何世紀も前から親しまれてきた
「カッフェ・ドルゾ(焙煎大麦飲料)」にミルクを合わせた、
伝統的な一杯。
第二次世界大戦中、
コーヒー不足を背景に大麦が代用品として定着した歴史を持つ。
近年は健康志向の高まりから、
カフェインフリーの選択肢として、
日本でも少しずつ見かけるようになっている。
コーヒーに似ているようで、
どこか懐かしい、
麦茶にも通じるような優しい香ばしさが特徴。

| 調理時間 | 約5分 |
| 分量 | グラス1杯分 |
| 難易度 | ★☆☆(3ステップ) |
材料(1杯分)
- オルゾ(焙煎大麦の粉末、またはティーバッグ):大さじ1、またはティーバッグ1個
- お湯:60ml
- 牛乳:150〜180ml
作り方
STEP 1

- オルゾをお湯で抽出する。粉末タイプなら大さじ1にお湯60mlを注いで混ぜる。ティーバッグタイプなら2〜3分蒸らす。
STEP 2

- 牛乳を温める。小鍋でゆっくり温めるか、電子レンジで加熱する。
Enjoy!

- カップにオルゾの抽出液を注ぎ、温めた牛乳をゆっくり加える。お好みでシナモンをひとふりして完成。
日本で作るなら?
オルゾは、まだ日本の食卓には馴染みの薄い食材なので、入手方法を知っておくと安心。輸入食材を扱うお店やオンラインストアで、イタリア産オルゾコーヒーが見つかることがある。〇mazonや〇天でも購入できるけれど、ルピシア様のオンラインストアなら、キャラメルハニー、イチゴのフレイヴァ―も楽しめるわ。もし手元にない場合は、濃いめに煮出した麦茶で代用するのも一つの方法。原料はどちらも大麦なので、近い香ばしさを楽しめるはず(焙煎度合いが異なるため、あくまで”近いアレンジ”として楽しんでね)。とはいえ、そもそもオルゾって、「イタリアの麦茶」ですから。
ちょい足しレシピ
- ヘーゼルナッツキャラメル風味:海外のオルゾ愛好者の間で人気のアレンジ。
- 豆乳で作る:カフェラテと同じ感覚で、豆乳に置き換えても美味しい。
- シナモンをひとふり:仕上げの香りづけに。
誰かの悲しみを、
そのまま愛せたこと。
それは重さではなく、
あなたが持っていた、
ちゃんとした強さだったのだと思う。
じゃあまたね!

Une image n’est rien sans vos mots.
― あなたの言葉のない image は、
あなたの言葉なしには何ものでもない
― Une image, sans vos mots,
c’est un plan sans voix.

poetry by ある光
a film by 一かけらの今
illustration by Velvet Easter Corp.
for those who still believe in love.
まだ愛を信じている、すべての人へ。
あなたの「恋」を、ぜひここに
誰かに話すほどではないけれど、
自分の中では忘れられない瞬間。
言葉にできないほど切なかった夜や、
今でも胸が温かくなる記憶。
あなたの心の中にある大切な『恋』の欠片を、
少しだけお裾分けしていただけませんか?
※お送りいただいたメッセージは、編集部にて大切に拝見いたします。
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