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星々の悲しみ | 言えなかった言葉と、会えなかった夜。ネルーダの一行と『スプートニクの恋人』の孤独な軌道、Everything But The Girlの涙の光、そしてアイスランドの冬の定番マルト・オグ・アペルシーンの甘さとほろ苦さが、形のなかった恋に静かな居場所をつくる。

失恋が辛い
「マルト・オグ・アペルシーン(Malt og Appelsín)を楽しみながら、恋愛詩とコラムを楽しみたい」あなたへ。
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話そうとして、話せなかったこと。
会いたかったけれど、会えなかったこと。

名前のついた関係も、
思い出と呼べる出来事も、ほとんどなかったのに、
頬だけが、ちゃんと濡れている。

そんな夜に出会った、短い恋の詩を、
今日は、そっと開いてみたい。

Let your tears keep their shine.

à partir du 8 novembre 2026
一かけらの今 a l’honneur de soutenir

星々の悲しみ

Created by 一かけらの今

話そうとして
話せなかったこと

会いたかったけど
会えなかったこと

何もないけれど
それでよかった

星々の悲しみが
頬を伝うの


Poetry by ある光

愛はあまりに短く、忘れることはあまりに長い

言えなかった言葉と、
会えなかった時間が、
胸の中に、静かに積もっている。

ふたりのあいだには、名前のついた関係も、
思い出と呼べる出来事も、
ほとんどなかったのかもしれない。

形のない恋だったから、
悲しんでいいのかどうかさえ、
わからなくなってしまう。

「何もないけれど、それでよかった」は、
強がりではなく、本音も半分あるのだと思う。
想っていた時間そのものが、すでに満ちていたから。

それでも頬を涙が伝うのは、
満ちていたことと、届かなかったことが、
同時に本当だからなのだと思う。

涙を“星々の悲しみ”と呼ぶ距離感には、
悲しみを、ひとりの感情ではなく、
宇宙のように大きく静かなものとして抱える、
やさしさと諦めがあるのかもしれない。

そんな彼女に重なるのが、
チリの詩人、パブロ・ネルーダの言葉。
『二十の愛の詩と一つの絶望の歌』
(1924年)の「詩20」より。

« Es tan corto el amor, y es tan largo el olvido. »
— 愛はあまりに短く、忘れることはあまりに長い。

同じ詩の中で、ネルーダは、
星に満ちた夜の空を見上げている。

星と、会えなかった夜と、悲しみ。
その3つが、ひとつの詩の中で重なっている。

遠い星の光は、ずっと前に旅立った光なのだという。
だとしたら、いま頬を伝う涙も、
ずいぶん前に灯った想いの光なのかもしれない。

愛が過ぎ去るのは、あっという間。
けれど、思い出す夜は、ずっと続く。
その長さが、想いの深さの証拠なのだと思う。

『スプートニクの恋人』(村上春樹/1999年)

村上春樹の小説『スプートニクの恋人』(1999年)。

作家を目指すすみれは、
年上の女性ミュウに恋をする。

語り手の「ぼく」は、すみれに恋をしているけれど、
その想いは届かない。

ロシア語で「旅の連れ」を意味する
“スプートニク”が、物語の鍵になる。

星のあいだを、それぞれの軌道で回る衛星が、
ときどきすれ違うだけの孤独。
この物語を、そんなふうに読む人もいる。

想いは、いつも少しだけ、
相手の軌道からずれている。

「話そうとして話せなかった」彼女も、
きっと、そんな軌道の上にいたのだと思う。

すれ違った一瞬は、ほんの短い。
けれど、その光は、
夜空に、ちゃんと残っている。

形のなかった恋を、「なかったこと」にしない

彼女は、結論も、
慰めの言葉も、求めていないのだと思う。

言えなかったことにも、
ちゃんと価値があったと、
認めてほしい。

形のなかった恋を、
「なかったこと」にしないでほしい。

そして、静かに泣くことを、
そのまま許してほしい。

言えなかったことは、言えないままで、
ちゃんと、あったこと。

名前のなかった恋にも、流れた涙にも、
ちゃんと光があったのだと思う。

悲しんでいいのかわからなくなったときは、
悲しんでいい、と
ここで静かに言っておきたい。

fin d’un début
ある始まりの終わり

hitokakeranoima seleção

Everything But The Girl — “Don’t Let the Teardrops Rust Your Shining Heart”

言えなかったことを、涙といっしょに、静かに抱えている夜。会えない人を想いながら、誰にも言えない恋を、自分だけで抱えている夜。泣いたあとに、自分を責めずに、そっと立ち上がりたい夜。Everything But The Girlの“Don’t Let the Teardrops Rust Your Shining Heart”は、そんな夜にこそ、そっと再生したい曲だと思う。

少しハスキーなのに、決して押しつけがましくない。ため息のようなトレイシー・ソーンの歌声が、ピアノとスライドギター、そして重厚なチェロの響きの上を、ゆっくり泳いでいく。アルバムのレビューには、ダスティ・スプリングフィールドを思わせる暗い色合いの声、という言葉もある。1986年の音楽誌には、共感は歌詞ではなく声にある、と書いたものがある。冷たくて、あたたかい。夜の街の灯りのように、深い悲しみをたたえたバラード。

歌われているのは、悲しみに沈まないで、涙で輝く心を錆びつかせないで、という呼びかけ。夜通し車を走らせて会いに通った日々と、夜明けに何事もなかったように家へ戻る場面。誰もが、失うのが怖くて真実を隠している、という静かな諦めもにじむ。そして最後は、離れているときに書き留めた言葉を忘れないで、という願いに戻っていく。誰にも言えない恋の歌、として聴く人もいるのかもしれない。

Everything But The Girlは、トレイシー・ソーンとベン・ワットのイギリスのデュオ。この曲は、1986年8月に発売されたサードアルバム『Baby, the Stars Shine Bright』に収録されていて、作詞作曲はベン・ワット。アルバムの名前の“星々が明るく輝く”という言葉は、詩のタイトルと、不思議に重なっている。ベン本人は、このアルバムを、メロドラマ的で、まったく流行らない音、と呼んだと伝えられている。

Cherry Red Recordsは、80年代に活動したネオ・アコースティックのレーベルで、流行のエレクトロ・ポップとは違う、つたなくても人の手触りが感じられる音を残した、と言われている。オリーブ少女のバイブルのような名盤が多いので、この曲が好きな人は、ベン・ワットのソロアルバム『North Marine Drive』(1983年)や、Fantastic Something、In Embraceもチェックしてみてね。

「星々の悲しみ」の彼女が頬に伝わせた涙と、涙を錆びさせないでと歌うこの曲を並べると、涙は悲しみの跡ではなく、いまも光っているものなのだと思えてくる。

“Les larmes aussi savent briller.”
— 涙もまた、光ることを知っている。


A saudade também tem melodia.

マルト・オグ・アペルシーン(Malt og Appelsín)の作り方

“こんな夜”におすすめのドリンクを紹介。

マルト・オグ・アペルシーンのグラスが似合う、アイスランドの冬の窓辺のようなあたたかなカフェの風景

泣いたあとの、静かな夜に、
そっと飲みたい一杯。

アイスランドのクリスマスの定番で、
麦芽飲料のMaltと、
オレンジのソーダ、Appelsínを混ぜて作る。

名前は、「麦芽とオレンジ」という意味。
発祥のカフェがあるわけではなく、
家庭の味、クリスマスの定番として知られている。

Maltは、長いあいだ高価で、
薄めて長持ちさせるために、
他の飲み物と混ぜていた、と伝えられている。

そこにAppelsínが登場して、
組み合わせが定番になった、とも言われている。
なぜ定番になったかは、
誰にもわからない、と書く記事もある。

配合は、家ごとに少しずつ違う。
Maltを6、Appelsínを4にする人もいれば、
半分ずつにする人もいる。

配合を間違えると、家族の中の立場が危うくなる、
と冗談まじりに書く記事もある。

味は、黒ビールのようなコクと、
オレンジの甘酸っぱさ。
Maltだけなら、ほんのり甘い黒ビールのよう、
と形容する記事もある。

好みが分かれる、
慣れが必要な味、とも言われている。

あまくて、ほろ苦い。
どちらか一方に、決めなくていい味。
悲しんでいいのかわからない夜に、少し似ている。

※Maltには、ごく低いアルコール分を含む
とする資料もあります。
気になる方は、成分表示を確認してください。


Created by 一かけらの今
調理時間約2分
分量1杯分
難易度★☆☆(3ステップ)

材料(1杯分)

  • Malt(麦芽飲料):120ml
  • Appelsín(オレンジソーダ):80ml

作り方

 STEP 1

よく冷やした、MaltとAppelsínのボトル
  • MaltとAppelsínを、飲む前に冷蔵庫でよく冷やしておきます。

 STEP 2

グラスに先に注いだ、Appelsín
  • グラスに、Appelsínを80ml、先に注ぎます。

 Enjoy!

Maltを120ml、ゆっくり注ぎ入れます。泡があふれないように、Appelsínは先に注いでおきます。
  • Maltを120ml、ゆっくり注ぎ入れます。泡があふれないように、Appelsínは先に注いでおきます。

日本で作るなら?

Egils MaltとEgils Appelsínの日本での販売ページは、確認できていません。海外の通販はありますが、日本へ届くかどうかは確認できていません。

Maltの代わりには、カリブ海や中南米で人気の麦芽飲料、Malta(Malta GoyaやVitamaltなど)を使う方法があります。日本での入手しやすさは確認できておらず、Egils Maltと同じ味とは限りません。

Appelsínの代わりには、市販のオレンジソーダが使えます。Appelsínの甘さの評価は資料によって分かれるので、甘さはお好みで選んでください。

黒ホッピーを使う案もありますが、ホッピーはお酒です(もとのホッピーは度数が約0.8%)。黒の度数は確認できていません。20歳以上の方向けです。

ちょい足しレシピ

コーラを少し:10〜20%ほど足す人がいます。好みが分かれ、邪道とされることもあります。

スパイス版:麦芽飲料にハチミツ、胡椒、ジンジャー、シナモン、クローブを加えて15〜30分ほど煮出し、冷ましてから、冷やしたオレンジレモネードと混ぜる家庭レシピがあります。

大人版:Appelsín 1缶、麦芽飲料 1.5缶、軽いビール 0.5缶、という例があります。20歳以上の方向けです。


形のなかった恋にも、
ちゃんと光があったのだと思う。
言えなかったことも、会えなかった夜も、
なかったことにしなくていい。

今夜は、甘くてほろ苦い一杯と、
あの歌声に、涙をそっと預けてもいいのかもしれない。

じゃあ、またね!


poetry by ある光
a film by 一かけらの今
illustration by Velvet Easter Corp.

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まだ愛を信じている、すべての人へ。

○掲載されている作品の著作権はある光様に帰属します。

※お送りいただいたメッセージは、編集部にて大切に拝見いたします。

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