遅すぎた別れ | 「愛してない」と強がった夜の、汽車を見送る静けさ。ウィンターソンの問いと映画『Shadowlands』、The xxの“Angels”、熱いボンバルディーノの甘さが、痛みの奥に残る愛をそっとほどく。
「ふさわしくない」と言われた夜に、
「愛してない」と答えられる人は、
いちばん深く愛している人なのかもしれない。
汽車が遠ざかっていくあいだ、
声を荒げることも、すがることもせず、
彼女は静かに、見送ったのだと思う。
その静けさの下にあるものを、
今日は、ゆっくり見つめてみたい。
à partir du 1er novembre 2026
一かけらの今 a l’honneur de soutenir
遅すぎた別れ

僕は君に
ふさわしくない
そうね私も
愛してない
永遠よりも
忘れないよ
汽車が行くわ
遅すぎた別れ
Poetry by ある光
なぜ、愛の尺度は“失うこと”なのだろう
本当は愛しているのに、
自分から「愛してない」と言ってしまう。
それは嘘というよりも、
いちばん痛くない言い方を、
とっさに選んだ結果なのかもしれない。
「ふさわしくない」という言葉も、
やさしいようで、どこかずるいと思う。
選ばれなかった理由が、
きれいな言葉の中で、うやむやになってしまうから。
そして、「忘れないよ」。
その言葉を、慰めとして受け取ればいいのか、
残酷さとして受け取ればいいのか。
彼女自身にも、まだ、
わからないのだと思う。
彼女の中には、強がりも、あきらめも、
プライドも、まだ消えていない愛情も、
ぜんぶ一緒に住んでいる。
取り乱さずに見送る静けさの下で、
後悔が、にじんでいるのかもしれない。
そんな彼女に重なるのが、
イギリスの小説家、ジャネット・ウィンターソンの言葉。
『Written on the Body』(1992年刊)より。
« Why is the measure of love loss? »
— なぜ、愛の尺度は“失うこと”なのだろう。
失ったときの痛みの大きさで、
愛の大きさを知ってしまう。
そう考えると、「愛してない」と言った彼女の痛みは、
そのまま、愛の大きさの証拠になるのだと思う。
痛いのは、ちゃんと愛していたから。
その事実だけは、嘘にはできないのかもしれない。
失うことがこんなに痛いなら、なぜ人は愛するのだろう
映画『Shadowlands』(1993年)は、
リチャード・アッテンボロー監督、
アンソニー・ホプキンスとデブラ・ウィンガー主演の作品。
描かれているのは、作家のC・S・ルイスと、
アメリカ人の詩人、ジョイ・グレシャムの愛の物語。
やがてジョイは重い病にかかり、
ルイスは、愛した人を失う痛みと向き合うことになる。
そのルイスの問いが、こちら。
“Why love if losing hurts so much?”
— 失うことがこんなに痛いなら、なぜ人は愛するのだろう。
そして映画には、こんなセリフもある。
“The pain now is part of the happiness then. That’s the deal.”
— いまの痛みは、あのときの幸せの一部。
そういう取り決めなのよ。
いま胸が痛むのは、
あの日々が、それだけ幸せだったから。
「愛してない」と強がった彼女の痛みも、
幸せだった日々の、ひとつなのだと思う。
「ふさわしくない」の奥にある、「本当」を聞かせて
「ふさわしくない」は、やさしい言葉。
声も荒げず、誰のことも責めない。
だからこそ、いちばん深く切る刃なのだと思う。
責められたほうが、まだ怒れた。
「ふさわしくない」と言われてしまうと、
怒る場所も、泣く理由も、置き場がなくなってしまう。
忘れようとしても、
残ってしまうものがある。
本当は、気づいてほしかったのだと思う。
「愛してない」が、強がりだったこと。
「ふさわしくない」の奥にある、
本当の理由を、聞かせてほしかったこと。
せめて「忘れないよ」が、
嘘ではないと信じさせてほしかったこと。
そんなふうに願ってしまう彼女を、
わがままだなんて、思わなくていい。
強がった自分も、まだ愛している自分も、
どちらも、ちゃんと本当の彼女なのだと思う。
fin d’un début
ある始まりの終わり
hitokakeranoima seleção
The xx — “Angels”
hitokakeranoima seleção
The xx — “Angels”

こんな夜に聴きたい。言葉にしなくても、気持ちが届いていると信じたい夜。先がわからなくても、誰かの隣にいることを選ぶ夜。The xxの“Angels”は、そんな夜に、そっと再生したくなる曲だと思う。
イントロは、澄んでいるのに、どこか酔ったようにゆらぐギター。遠くから聞こえてくるような、エコーに包まれた響きが、じわじわと熱を帯びていく。ボーカルのロミー・マドレー・クロフトは、ささやくように歌っていて、ひと言ひと言が、まるで楽器のよう。ほとんど何もない空間に、短いドラムと繊細なギターだけがそっと置かれていて、ミニマルなのに、あたたかい。眠りに誘われそうな子守唄のような空気、と言われることもある。
歌われているのは、言葉にならない気持ちと、何も言わない献身。「私が何を言いたいか、あなたにはわかるでしょう」と、確かめ合わないまま信じる関係で、先のことはわからないのに、「あなたがそばにいてくれるなら、覚悟はできている」というような、静かな決意に着地していく。
The xxは、ロンドンの3人組。“Angels”は、2012年9月に発売されたセカンドアルバム『Coexist』の1曲目で、先行シングルでもある。ロミー本人は、この曲を、実際に恋をしている気持ちを歌った、とてもポジティブな歌詞の曲だと語ったと伝えられている。アルバムの中でも、いちばん軽やかな曲、とも言われている。
The xxの静けさが好きな人は、ロミーが2023年に出したソロアルバム『Mid Air』もチェックしてみてね。
言えないまま別れを選んだ「遅すぎた別れ」の彼女と、言わなくても伝わると信じてそばにいることを選ぶ“Angels”。ふたつを並べると、同じ沈黙でも、行き先が違って見えるのだと思う。
“Le silence aussi est une façon d’aimer.”
— 沈黙もまた、愛し方のひとつ。
A saudade também tem melodia.
ボンバルディーノ(Bombardino)の作り方
“こんな夜”におすすめのドリンクを紹介。

「ふさわしくない」と言われた夜は、
体の芯まで、冷えきってしまうような気がする。
そんな夜に、そっと両手であたためたい一杯。
ボンバルディーノは、イタリア語で
“小さな爆弾”といった意味の名前。
卵黄のリキュールにブランデーを加えて温め、
ホイップクリームを乗せた、ホットドリンク。
イタリア北部のスキー場で、ゲレンデから戻った人が
頼む定番、とされている。
生まれたのは、リヴィーニョ(Livigno)にある
モットリーノ(Mottolino)のスキー場で、
1972年ごろ、と言われている。
ただ、誰が考えて、いつ名前がついたのかは、
資料によって、少しずつ違うらしい。
名前の由来も、一口飲んだ人が、
あたたまる強い刺激に“爆弾みたいだ”と叫んだから、
とする話が多い。
2026年2月のミラノ・コルティナ冬季オリンピックの頃には、
海外のメディアが、このドリンクを取り上げた。
日本語で読める情報は、まだ多くない。
だからこそ、ちょっと秘密めいた一杯。
卵のやわらかな甘さと、ブランデーの熱が、
冷えた胸のあたりを、ゆっくりほどいていくのだと思う。
強がりで固めた気持ちも、小さな爆弾みたいに、
ほろっと崩れてしまうのかもしれない。
※お酒を使ったドリンクです。
20歳未満の方は、飲まないでください。

| 調理時間 | 約5分 |
| 分量 | 1杯分 |
| 難易度 | ★★☆(4ステップ) |
材料(1杯分)
- 卵リキュール(Vov、Zabovなど):90ml
- ブランデー:30ml
- 生クリーム(無糖):50g
- ココアまたはシナモン:少々(お好みで)
作り方
STEP 1

- 生クリーム50gをボウルに入れ、やわらかく角が立つくらいまで泡立てて、冷蔵庫で冷やしておきます。
STEP 2

- 小鍋に卵リキュール90mlを入れ、弱火でゆっくり温めます。60〜70℃までにとどめ、沸騰させないようにします。
STEP 3

- 火を止めてから、ブランデー30mlを加え、静かに混ぜます。
Enjoy!

- 耐熱グラスの2/3ほどまで注ぎ、冷やしておいたホイップを乗せて、ココアかシナモンを少々振ります。
日本で作るなら?
Vov、Zabov、アドヴォカートなどの卵リキュールは、日本での販売ページを確認できていません。あるかどうかは、お店や通販で探してみるのがよさそうです。
代わりに、市販のエッグノッグ120mlにブランデー60mlで作る例があります。エッグノッグの日本での入手しやすさは、確認できていません。
卵、砂糖、ブランデー、バニラで作るザバイオーネで代用できる、と書くレシピもあります。分量は書かれていないので、試作しながら調整することになりそうです。
卵リキュールを手作りするレシピも海外にはありますが、日本の酒税法上の扱いを確認できていないため、ここでは市販品を使う前提にしています。ブランデーは、市販品で十分です。
ちょい足しレシピ
カリメロ(Calimero):ブランデー、Vov、エスプレッソを同量ずつ(1対1対1)で合わせます。
ピラータ(Pirata):ブランデーの代わりに、ラムを使います。
スコッゼーゼ(Scozzese):ブランデーの代わりに、ウイスキーを使います。
シナモン、ココア、ナツメグ、シナモンスティック、八角を添える案もあります。
ボンバルディーノ・アル・リモンチェッロ:リモンチェッロを加えた、別のレシピとして紹介されています。
「愛してない」と強がった夜の痛みは、
ちゃんと愛していた時間の、証拠。
痛むことを、恥ずかしがらなくていいのだと思う。
今夜は、あたたかい一杯と“Angels”の静けさに、
少しだけ甘えてもいいのかもしれない。
じゃあ、またね!

poetry by ある光
a film by 一かけらの今
illustration by Velvet Easter Corp.
for those who still believe in love.
まだ愛を信じている、すべての人へ。
あなたの「恋」を、ぜひここに
誰かに話すほどではないけれど、
自分の中では忘れられない瞬間。
言葉にできないほど切なかった夜や、
今でも胸が温かくなる記憶。
あなたの心の中にある大切な『恋』の欠片を、
少しだけお裾分けしていただけませんか?
※お送りいただいたメッセージは、編集部にて大切に拝見いたします。
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