風| 忘れたい記憶と、忘れられない記憶の話。C.S.ルイスが妻の不在を「空」と呼んだ理由と、ユズ・エスプレッソスプリッツの苦さが、消さなくていい痛みをそっと包み込む。

好きな人を忘れる方法がない

夏の終わりの風には、
いつも少しだけ、
塩の匂いがする。
誰かを想って泣いた後の頬みたいに。

もしあなたが今、
理由もわからないまま
胸の奥がひりひりする夜を過ごしているなら、
今日はその「痛み」を
どうか消そうとしないでください。

それは、あなたが誰かを
本気で愛した証拠かもしれないから。
ご紹介する恋愛詩は、
真白(ましろ)といいます。様の
「風」。
@AuvdxnHLtOpOvB5

Certains chagrins méritent d’être gardés comme un parfum.

à partir du 26 juillet 2026
一かけらの今 a l’honneur de soutenir

Created by 一かけらの今

夏の風は
身体の中を吹き抜け
小さな傷を残してゆく

胸の中を
吹き抜けるたびに
小さな痛みを残す

愛しい痛みは
忘れたくない私への
神様からのプレゼント

今日も切ない風が
私を吹き抜けてゆく
遠い西の空の向こうへ

私たちは自分が何を、そして誰を失ったのかを正面から受け入れなければならない

この詩の中の「私」は、
夏の風が身体を吹き抜けるたびに
「小さな傷」を感じている。

それは季節のせいではなくて。
おそらく、今はもう隣にいない誰かの記憶が、
風という形を借りて、
まだ彼女の中を生き続けているのだと思う。

そして最後の一行、
「遠い西の空の向こうへ」。
この言葉に、
私はどうしようもなく胸をつかまれました。

西の空とは、太陽が沈んでいく場所。
それはきっと、もう手の届かない場所——
過去かもしれないし、遠い街かもしれないし、
この世の向こう側かもしれない。

彼女は、その相手がどこにいるのかを、
はっきりと言葉にはしていない。
ただ、届かない場所にいることだけは、
確かなのだと思う。

アメリカの心理学者で、
エッセイストでもあるジュディス・ヴィオーストは、
著書『Necessary Losses』の中で、
こう綴っています。

« We have to acknowledge who and what we have lost. »
— 私たちは、自分が何を、そして誰を失ったのかを、正面から受け止めなければならない。

この一文の後には、
まだ全てを手にしているかのように振る舞ったり、
失ったものの代わりになる何かを見つけて
安心しようとしたりすることへの、
静かな警告が続きます。

痛みを見ないふりをすることは、
癒しではありません。
ただの先延ばしね。

忘れようとするより先に、
まず「私は何を失ったのか」を、
自分自身に正直に言葉にしてあげること。

それが、風に痛みを残されるあなたに、
いちばん最初にしてあげられることだと思う。

愛していたのは「自分とは異なる一人の生きた人間」(C.S.ルイス『悲しみをみつめて』)

もう一人、紹介したい人がいます。
イギリスの作家であり文学研究者でもあった、
C.S.ルイス。

『ナルニア国物語』の作者として知られる彼ですが、
実は最愛の妻を亡くした後、
その悲しみをそのまま書き綴ったエッセイを残しています。
『A Grief Observed』——邦題『悲しみをみつめて』。

この本の中で、
ルイスはこんな言葉を残しています。

« All reality is iconoclastic. »
— 現実というものは、すべて偶像を打ち壊す。

少し難しい言葉だけれど、
意味するところはとてもシンプル。
私たちはつい、失った相手を
「自分の記憶の中の、都合のいいイメージ」
として美化してしまうもの。

でもルイスは、
本当に愛していたのは、
そんな作り物のイメージではなく、
癖も、欠点も、予測できない部分もすべて含めた
「一人の生きた、自分とは違う人間」
なのだと言うの。

だからこそ痛みは、
その人が確かに実在していたことの証明でもある。

彼は、思い出の場所を避けても、
避けなくても、
彼女の不在はどこか一点にあるのではなく、
生活そのものを覆う空のように、
あらゆる場所に広がっていたと綴っている。

グリーフケア(悲嘆ケア)の研究分野でも
今なお引用され続けるこのエッセイは、
「悲しみは乗り越えるべき段階ではなく、愛の続きである」
という考え方の、
ひとつの原点だと言われています。

悲しみは、喜びの容れ物を広げるためのもの

レバノン出身の詩人であり
哲学者でもあったカリール・ジブラーンは、
代表作『預言者』の中でこう書いているわ。

« The deeper that sorrow carves into your being, the more joy you can contain. »
— 悲しみが魂に深く刻まれるほど、そこに宿せる喜びの器も、大きくなる。

傷つくことは、
愛の副作用なんかじゃない。
愛そのものの、一部。

この詩の「私」が感じている「小さな傷」は、
弱さの印ではなく、
むしろこれから先、
もっと大きな喜びを受け止められるようになるための、
静かな準備なのかもしれない。

忘れることが、癒しなのではなくて。
その痛みを、
ちゃんと自分のものとして認めてあげること。
それこそが、癒しの、
いちばん最初の一歩なのだと思う。

あなたが今日感じている切なさは、
消すべきノイズではなく、
あなたという人間の輪郭を、
確かに深くしている最中の証なのだから。

fin d’un début
ある始まりの終わり

ユズ・エスプレッソスプリッツ(Yuzu Espresso Spritz)で少しビターに癒されましょう

“こんな夜”におすすめのドリンクを紹介。

さて、痛みを見つめた後は、
少しだけ舌の上にも
「ビター・スウィート」を与えてあげましょう。

今、イタリアやロンドンで
静かに人気を集めているのが
「エスプレッソトニック」の進化系、
ユズ・エスプレッソスプリッツ。

柚子やブラッドオレンジの
シロップ、トニックウォーター、
そしてエスプレッソを重ねた、
ノンアルコールのカクテル風ドリンク。

仕上げにローズマリーを一枝添えれば、
それだけでカフェの店先みたいな顔になります。


Created by 一かけらの今

準備するもの(グラス1杯分)

  • ゆず茶(ゆずジャム):大さじ1〜1.5(果汁とシロップ、もしくは蜂蜜でも代用可)
  • トニックウォーター:100〜120ml(無糖炭酸水+ガムシロップでも可)
  • エスプレッソ:30ml(濃いめのインスタントコーヒーや、市販の無糖ポーションコーヒーでもOK)
  • 氷:グラス一杯分

作り方(きれいな2層をつくる順番)

  • グラスの底にゆず茶を大さじ1〜1.5入れる。これが底の甘み層になる。
  • 氷をグラスいっぱいに入れ、トニックウォーターを7〜8分目まで注ぐ。底のゆず茶と軽くひと混ぜしておく。
  • いちばん上の氷に当てるようにして、エスプレッソをゆっくり静かに注ぐ。比重の差で、自然と美しいグラデーションができる。
  • 甘いものが少し苦手な人にもおすすめできる、大人の後味。スタイリッシュなグラスとハーブの香りだけで、いつもの部屋が少しだけ上質な空気になる。

ちょい足しレシピ:ソルティアレンジ

  • 仕上げにほんの一つまみの塩を。柚子の甘みとコーヒーの苦味がきゅっと引き締まって、夏の疲れをリセットしてくれる、ひんやりとした一杯に変わる。

今日という日に、
少しだけビターな優しさを。

あなたの中を吹き抜けていくその風も、
いつかきっと、
誰かへの愛おしい記憶として、
そっと胸にしまえる日が来るはずだから。

Une image n’est rien sans vos mots.


― あなたの言葉のない image は、
あなたの言葉なしには何ものでもない

Une image, sans vos mots,
c’est un plan sans voix.

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