あなただけに会えない光
境界
舗道を埋める桜の花びら
踏んでしまうのが
もったいないようで
遠回りをしようと言うと
子供だね、とあなたは笑う
なにも思わず
花びらを踏めるのが大人なら
このままでいい
きれいなものは
きれいなままで
憧れは
憧れのままに
ゆっくりと
手をひらく、むすぶ
まばたきをする
深く息を吸う
ひとつひとつの仕草が
横顔が
あまりにも静かだから
たったそれだけで
許されている気がする
小指の糸の先
恋の相手は
きっと無限なのに
あなたしか選べない
あなたばかりを選んでしまう
不自由さ
大切なものほど
大切なものを
五つあげてと言われたけど
どんなに考えても
五つは埋められなかった
五つあったら、
わたしは今よりしっかり者に
なっている?
毎日笑顔でいられるの?
大切なものは永遠じゃないから、
大切だと思った瞬間から
壊れてしまう気がして
大切なものほど
この手のひらからいちばんに
こぼれてしまうから
あなたのことは
ありふれた
シュークリームのひとつくらいに
留めておこう
青いひかり
おはよう、の文字が
手のひらに収まった
青いひかりに
ぽつ、と浮かんでいる
今日は
きっと、いい日
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
花を選ぶ
色とりどりの花
美しく咲いた顔を
こちらに向ける
あまりにも誇らしげで
屈託がなくて
まぶしくて
花を手にしたときは
光を身にまとっている心持ち
今日は何色の光?
欲しいもの
この世界は美しいもの
楽しいものであふれていて
どれもが輝いてみえるから
気持ちは
あちらこちらへと向かってしまう
欲しいものを手に入れたなら
わたしも輝いてみえるに違いない
それならあなたの目にも
輝いて見えるかもしれない
そんなことばかり考えていた
手にしたものは
たしかに美しくて
楽しくて
誰よりも強くなれた気がした
けれど
美しさや楽しさは揺らいでいて
移ろいやすくて
不安定
手にしたときには変わってしまう
心からほしいものは
あなただけ
それなのに
少しも近づくことができない
だから
手放してしまおう
欲しいものの全てが
必要なものとは限らないね
静かに
あなたを
心の真ん中に置くと
凪いだ海にいるよう
鏡のような水面に映し出される
あなたと
わたし
鈴蘭
俯いてばかりいて
何が辛いの?
わたしの気持ち
エイプリル
好きだから離れられない、なんて
そんなことはない
好きだから離れてもいいんだよ
大丈夫
あなたの好きなものは
ひとつひとつ覚えている
好きな声
言葉
音
風景
季節
この手に
心に
しっかりと残っている
だから
あなたはあなたの思うほうへ
わたしはわたしの思うところへ
好きなだけ歩いたら
また
ここで会いましょう
大丈夫
思い出はいつも
光をともす
fin d’un début
ある始まりの終わり