まだ一握りほどの空
序章
予感はあった
きっと初めから
気づくと目が離せなくて
その存在に
背中もぴりりとこわばる
気のせいだと言い聞かせるほど
もう気のせいにできないと悟る
高鳴る気持ちと
不安
知っている
これは始まりのサイン
ひみつの種
楽しそうだねと
聞かれて鼓動が跳ねる
始まったばかりの恋を
まだ芽が出たばかりの
不確かな恋を話すには
足りない勇気
訝しげな友達
ごめんね
もう少し
まだもう少し待ってと
笑顔の下でつぶやく
眩しい日
自転車で駆け下りる
傾いた日射し
汗ばむ制服整え
指からもれる陽に目を細める
ふぅっ、と息をつく
いつもの歌で
いつものことなのに
多分ずっとこれからも
まだ気取られないように
いつもと変わらない
わたしとあなたでいられるように
平行線
わたしの背伸び
わからないでしょ
あなたには
大人びて見せる
なんでもないように
3歩くらい大人なあなたに
縮まらない歩幅
手を伸ばしても
空を掴むだけ
わたしだけでは足りない
いつかと期待してはいけないだろうか
差し出される手を
夏の蜃気楼
ふざけ合い
シャツの裾からのぞく肌
ちらりと鮮明に
はしゃぐあなたに
背を向ける
地面の焼ける匂い
揺れる視界
くらくらするような
蜃気楼
瞼の裏には
ただその景色だけが鮮やかに
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
弾む心
近づく影に速まる鼓動
笑えわたし
大丈夫
大丈夫
軽口ですれ違う
込み上げる嬉しさに頬が緩む
気づいてないでしょう
きっとわたしの方が
いくらも先に気づいていた
また頬が緩む
夕焼け色の孤独
賑やかな街
寄り添う肩
2人が見つめる先に
交じる長い影
そして、ひとりを感じ
ひとりにふける
ふと我に返る
「夕焼け、きれいだね」
あなたがつぶやく
どこまで歩いても
寂しさが消え去らない
あなたのぬくもり
消え入る帰り道
憂鬱は至福に似ている
頬杖ついてため息
嬉しさなのか
苦しさなのか
繰り返される毎日の
わたしだけの反省会
暗闇にぼうっと光る手元
所在なさげにスライドする指先
思い浮かべたシルエットに
ため息をもう一つ
寝つけない夜の
わたしだけの時間
恋の割合
勉強していても
友達とふざけ合っていても
布団に潜る時も
朝の目覚めの時だって
8等分にはできない
丸々1個分の想い
もしかしたら
いつか来るかもしれない
もっと器用に分ける事が出来る日が
でも今はまだ
艷やかなりんごをかじりながら
一滴もこぼさないように
大切に大切に
想いは空の果て
嫉妬する
笑顔の訳に
一緒に流す
涙の訳に
知りたい
あなたが夢中になるものを
見たい
あなたが今
見ている景色
まだ一握りほどの
欠片しか
わたしは持っていないから
想いは空の果て
終わり方はまだ
思いつかない
fin d’un début
ある始まりの終わり