モラトリアムに沈む口づけ
この気持ち
あなたが
わたしの心の中の
やわらかい
秘密の場所に
コスモスが
咲き誇る草原で
季節が変わってしまう前に
この気持ちに
名前をつけるなら
何と名づけよう
それはきっと
恋なのだろう
あなたが
わたしの心の中の
やわらかい
秘密の場所に
ギフト
「うちにあったから」
あなたからの
初めての
贈り物
茶色く丸い
何かの球根
どんなふうに育つのか
わかるわけないけれど
「君にあげたくなったんだ」
その言葉を
心に刻んで
忘れないように
掌にのった
球体から
陽だまりの香りが
あなたと同じ
光
光のあたたかさが
緑にぐんぐん
しみこんでいく
きっとあなたは
誰の心にも
この光のように
しみこんでいく
緑に手を当てる
ふかふかの
あたたかい
ここはわたしの心の中
香り
乳白色の
器のなかに
琥珀色の液体が
落ちていく
香りが
胸の中に
ひろがって
好きだといった
琥珀色の香りが
わたしの中にも
ひろがっていく
もっと もっと
大きく吸い込んで
あなたの好きと
わたしのそれを
近づけたくて
ジューサー
この気持ちに
答えを見つけたくて
あなたには
言えないけど
友達に聞いても
それは憧れ
それは恋
いろんな思いがあふれる
ぐるぐる
全部まとめて
ジューサーに
入れてしまえたら
どんなにいいだろう
そうしたら
おいしくいただいて
くれますか
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
ワンシーン
街の中で
あなたを見かけた
プラタナスの木が
並ぶ道で
隣で歩くあの人は
あなたに少し似た
オレンジ色の光
伸びやかな
笑い声が
プラタナスの葉を揺らして
まるで映画の
ワンシーンのよう
2人が主人公で
わたしはわき役
そんなことにも
気づかなかったなんて
イマジン
わたしの心の中に
もろくて儚い部分に
あのサヨナラがちらついて
消えてしまいたいけど
あなたからもらった
やさしさのほうが
あなたからもらった
あたたかさのほうが
勝ってしまうのは
仕方がないことなのかな
オレンジの2人
2人を見かける
あの人と
あなたじゃない人
隣に並んで
手をつないで
あなたは
後ろから
うれしそうに
オレンジ色の2人を
見ていた
あなたのことを
信じて
心を陽だまりがそめていく
アスチルベ
花が咲いた
濃い緑の葉から
まっすぐ空に
茎が
そこに桃色が泡立つ
花の名前を調べて
あなたの気持ちが
偶然かもしれない
それでも
伝えなくてはいけない
あなたに
わたしの心の中の
やわらかい
秘密の場所に
同じ名前の花が
モラトリアム
外に置いた
バケツに
空から落ちた
水がたまっていく
モラトリアムに
身をまかせて
水があふれても
きっと大丈夫
わたしの心は
ずっとからっぽ
あの日のキスから
ずっと空洞
あふれた水は
いつかあなたを
沈めるでしょう
わたしも一緒に
沈みたい
fin d’un début
ある始まりの終わり