きっと毎日空は痛みを伴って
踏切
踏切の甲高い音が
風にまたがってこの部屋に来た
急いで駆け抜けたいのに
足がすくむ
もう何本も電車を見送ったような
やるせなさが部屋を満たしていた
踏切の音と入れ替わるように
君のため息
セーター
セーターの裾を引っ張る癖
君はちょっと嫌がっていたね
言いたいことを飲み込んで
綺麗な嘘と笑顔を用意しても
君はすぐに見破った
少し伸びてしまった
君のセーターに絡まる
秋を告げる風
枯葉が傷つけあう音
似紅
ほんの1ピクセルずれただけで
この絵は完成しないんだ
慎重に慎重に線を置いて
少しずつ少しずつ色を注ぐ
君の目の先
似紅が交わらずに重なっていく
滲みもせず
明日が見えないような夕焼け空を
君は描いた
midnight
ただ二人いるだけで
分かり合えたらいいのにって
空の淵を見て
アンドロメダにそっと願った
午前2時
窓の隙間から見える
いくつかの光の下に
どれくらいの愛があるだろうか
そっと手を伸ばしても
触れられない光
整然と
ところどころに空いた穴
繕うように
ポツリ、ポツリと言葉が漂う
ほんの一言で
心の底まで届いていた日々を
懐かしく思い出す
君は今、何を思ってる?
本棚に並ぶ
日に焼けた背表紙を眺めた
二人で少しずつ
埋めていった空間
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
chair
古道具屋で見つけた
籐の椅子を
日の当たる場所に移動するのが
君のこだわりだった
ちょっとささくれても
大切に補修していた
お気に入りの場所
そっとそこにいて
全てを受け入れる
そんな風に私もなれたらよかった
髪結い
結った髪をほどいては
またくくって
意味もなく何度も繰り返した
小さな部屋に
君の声とキャンドルが揺れる
吹けば消えてしまう
六等星のような光と声
この声に何度も心を撫でられたから
終わりを告げられても
なんだか心地よくて困る
髪を結い直して下を向く
変身
思い出は
いつになったら痛くなくなるの?
星でさえ
永遠ではいられないの?
そんなことを思いながら
朝焼けを1人歩いた
空はグラデーションに染まって
ひとつの色では
いられないみたいだった
朝になるのは簡単なことではないね
きっと毎日空は
痛みを伴って変身しているんだろう
落ち葉
くるぶしまで重なる落ち葉は
朝焼けのグラデーションみたい
交わらずに重なる絵具で
神様に秋の色を注がれた
分け入りながら
ひたすらに進んでいく
どこに辿り着いても
また笑えるように
今だけ泣きながら歩いた
new born
生まれ変わったよ、
と教えてくれるように
朝日がまつ毛をめくった
君の絵の完成は見れなかった
君の椅子にもなれなかった
君の声をもっと聞いていたかった
まだあちこち痛いけど
息を吸い込んで
私はまた私をはじめ直すの
fin d’un début
ある始まりの終わり