あなたの体温
逆光
ひだまりの中で
窓辺に座る
あなたと出会った
あなたはまつげを伏せ
文庫本にため息
まるで時間が
止まったみたいで
ページをめくる指が
見えなくなる
逆光の中で
わたしは息を止めたの
夕焼けの二人
放課後の教室
いつのまにか
うたたねの中
校庭から聞こえる
陸上部の掛け声
ふと目を開くと
すべてが橙色に染まって
夢の続きみたい
まどろみの中で感じる
あなたの気配
まだこうしていたくて
気づかれないように
また目をつむったの
どこまでも遠く
ここではないどこかへ
わたしを連れ去って
私の手をにぎって
どこまでも遠く
幾千連なる北国の山々
コバルトブルーの暖かな海
見知らぬ遠国の街
決して離さないと
約束してくれたら
どこまでも遠く
ここではないどこかへ
二人を隔てるもの
ガラスが割れて
地上に光が降るように
わたしの心も
地上に堕ちてしまえばいい
窓の外に広がる
あなたがわたしにしてくれたこと
部屋の中でうずくまる
わたしがあなたにしてあげたこと
ガラスが割れて
ひとつに融け合えたら
どんなにいいか
ストーン
パールのネイルチップ
オーロラのように
揺れながら
桜の花弁のように
淡く柔らかく
曖昧で不確かな
あなたへの気持ちに似ている
気づいてほしいなんて
思わないけど
わたしに少しの勇気が
あるのなら
スワロフスキーの
大粒のストーン
デコレーションして
両手を空にかざしたい
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
あなたの体温
吐く息が凍る朝の舗道で
かじかんだ私の手を
あなたは握ってくれる
いたずらっぽい笑みを湛えて
やさしい私のお日さま
胸の片隅
いつも佇んでいるの
大きな温かい手で
ぎゅっと握られた
あなたの体温
蝶
ゆらりゆらり
羽ばたく蝶
あなたの心は
かぐわしい花を探して
浮遊する
ふわりふわり
光と戯れながら
花から花へ
自由で気まぐれで
おいしい蜜を吸うあなた
どうか
わたしの心で
羽を休めてくれたら
花びら
誰のものにもならないで
まだ側にいられるでしょ
友達のフリをしていれば
きっとあの子は気づかないでしょ
ワガママな子供みたいでも
かぼそく揺れた淡い花びら
うつむいた先に
シクラメン
面倒なことは言わないから
側にいさせてほしいの
氷雨
側にいるのに
こんなにも遠い
氷雨を掴む手のひらには
かすかな涙の一滴
私は迷い
不安になるの
いっそあなたを
霧に隠してしまえたら
そんなことを思うほど
私の心は凍りつく
雪の女王になったみたいね
鏡の破片を
どうか溶かして
あなたはもう
4℃のペアリングも
一緒に行った映画の半券も
ふざけて渡された
コンビニのレシートも
全部あなたがくれたから
うれしかった
あなたがくれるものなら
何だってよかった
一つひとつが大切で
一つひとつが忘れられない
ベッドの脇で微笑んでいる
あなたがくれたもの
あなたはもう
忘れているかもしれないけれど
fin d’un début
ある始まりの終わり