夜な夜な魚を宿しながら
冷めてしまうほど
泡立った心に
皸の綻び
じわり
貧相な赤魚を
浴槽に泳がせて
きれいになりましょう
冷めてしまうほど
ゆっくりと
うつくしくなりましょう
脈打てば揺れて
ぱちり
咲くように弾けて
消えてしまう前に
おいしくなりましょう
夢のまま
あっけなく
朝は来る
何事もなかったことにして
いつも通り
地球は回る
余熱なんてなかったことにして
昨日の夢は
夢のまま
光を浴びれば
忘れてしまうような
朧気な夜は
二度と来ないのに
日常のピース
ベゴニアの鮮やかな紫が
ふたつの歪な絡まりを
さも正しい形であるかのように
ありふれた日常のピースを
間違いなく嵌め込んでゆくのは
穏やかに眠ることより
難しい
そのまま
色褪せずにいてほしくて
手折る
なんてことは
できっこないのだけれど
寝苦しい夜
弁解の余地なんて
ないほどに
息を荒げてしまうような
情熱的な三十七度だ
狂おしい胸の内を
吐き出せない
かわりに
聲にならない叫びを
誰にも気付かれないように
枕の中へ閉じ込める
冷めやらぬ微熱が
いつまでも
寝苦しい夜のネオンだ
世界
水槽の底で
半透明の海老は
忙しなく食事をするし
その水面には
狭いなりの平和と
出来損ないが浮かんで
交わることのない
世界が
同居していて
悲しみは
鱗を散らしながら
乱反射
関係ないや
もっと
盲目的に恋をしたいな
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
指先の向こう
欲しいものを手に入れて
満ち足りてゆくのが
人生ならば
不完全なまま
終わりを迎えそうだ
そんな予感を
ありのまま伝えたとして
何になるのだろう
不相応な指環が輝くほど
空いてゆく
指先の向こう
透けて
命
費えるまで欲しがりたい
不確かな存在
電線の上で
烏の集会
本日の議題は
人間の気持ちほど
不確かな存在はない
ということにして
駅に向かう足の
気怠さ
愛に急かされているみたいで
羽ばたいてしまいたいの、
とも
思わないのだから
人間の気持ちほど
不確かな存在はない
独り占め
最後の晩餐に
ふさわしくなりたい
めかし込んで
誰からも愛されて
そういうものに
なれたとして
召し上がれ、
と
勧めるのは
きっと裏切り者だ
それでも
美味しそうな形で
差し出したいと思うのは
最高級の我儘でしょう
独り占めしたって
構わないからね
苦い花
人類が
愛し合うように
創られて
幾星霜
何一つとして
その様式が
変わらないのなら
蒲公英のように
なりたかったけれど
到底及ばないな
根ばかりを張り巡らせて
旅立てないまま
苦い花を
鮮やかに見せつけるだけ
魚を宿しながら
骨の髄まで
愛されました
皮になるまで
愛しました
それでよかった
よかったと
割り切れるほど
愛し愛され
曖昧になりました
夜な夜な
魚を宿しながら
獣になる
ふたり
身を失くして
もう食べるところも
ありはしないよ
ごちそうさま
fin d’un début
ある始まりの終わり