夕陽が落ちる時刻
視線
光に透ける淡い髪
柔らかそうな猫っ毛
頬にしたたる汗
レブロン18の
バスケットシューズ
忙しなく眺めていたら
意味ありげな隣の視線
目配せをされて
ようやく気づくの
わたしは
彼を
会えない理由
あなたに会うって
特別なこと
あなたを深く知っていて
わたしを深く知ってもらえてる
多分、その通りだわ
だから
気づきたくなかった
わたしは彼をただ知っていて
彼はわたしをよく知らない
わたしは彼に一度も
会っていなかった
髪を摘む
前髪を1センチ切って
新しい自分になった気がして
鏡を覗いてみるけれど
それが思い違いだって
気づかないほど子供じゃなくて
隠さずにいれるほど
大人じゃなくて
前髪が伸びるまで
わたしは髪を摘む
彼の目線
部屋の中でだけ履いている
ヒールの高いパンプス
彼の目線に
近づけるかもなんて
出来もしないのに考えて
出来もしないから履けなくて
一歩を踏み出すことが
出来ない弱いわたしは
並べられた靴を眺め
スニーカーに足を通す
彼の隣
名前を呼ばれて振り返り
視界に映る彼女と彼
嬉しそうに手を振る彼女
窓越しの彼女に
手を振り返しながら
ごめんねと心の中で呟く
窓に映った自分を見て
気づいたの
ごめんね
彼の隣にいるあなたに
微笑むこと
できなかった
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
言葉
彼との共通点を数えてみた
分かってはいたけれど
片手の指でも余ってしまうほど
笑っちゃうほど少なくて
違う二人の方がうまくいくって
誰が言ったのかも覚えていない
そんな根拠のない言葉に
今日も縋っている
答え
零れ落ちそうな
ひとつひとつを零さないように
両手で包んでみるけれど
指の隙間から零れ落ち
わたしの手には
収まりきれない
一方通行な想いは
そういうものと
考えても考えても
答えはなくて
無重力
長い髪をなびかせて
綺麗に塗られた唇で
ころころと笑う彼女は
とん、と彼の肩に触れ
ひょい、と顔を覗き込み
どこまでも
軽やかで自由で
月のうさぎがいたとしたら
それは彼女のようでしょう
きっと彼女は無重力
今日
今日こそは
今日こそはと
鏡の向こうの自分に願うのに
一つに束ねた髪の毛
リップクリームだけの唇
彼の後ろ姿の影にも
触れず
只々
横顔を遠く眺め
身動きがとれない
重い足
今日も重力が邪魔をする
夕陽が落ちる時刻
通い慣れた古本屋
本棚越しに見えた彼
いつものように隠れそうになるのを
わたしの中の何かが
必死に止めた
それはきっと昨日
泣いたわたし
本が好きなの、と尋ねる彼に
好きだよ、と
本を栞に伝えるわたし
彼の赤い頬を見て
夕陽が落ちる時刻を知る
fin d’un début
ある始まりの終わり