やさしい空に散りゆくもの
オレンジ
甘ったるいジュースは
口内で粘着質に
まとわりついた
カラダが砂糖漬けに
なったみたいに
駆け巡る
果汁40パーセントしかない柑橘
いつも貴方の手にある
この紙パック
私だってもっと
苦くてたまらない
珈琲とか
痺れるほど強い
カフェラテで
背伸びしたかったのに
セレナーデ
月並みのクラシックを紡ぐ
無我夢中で弾いていたら
突然唸るような
低音が響いた
驚いて見た私とは違って
落ち着く
貴方が憎らしい
「邪魔しないで」
「モーツァルト?」
「……シューベルト。」
「へえ、すごい」
モーツァルトしか
知らないくせに
意外と
緩んだ音も悪くないけれど
夢幻
気だるい朝
ベッドサイドに
置いたスマホに手を
伸ばせば震えて
微かに香った
大嫌いな煙草のかおり
何もかもまだ手遅れじゃないなら
思い出してしまう前に
履歴もひとつのこらず削除した
カーテンを揺らす風は
私の所まで届かない
まだ夢の中にいるのかしら
確信犯
灰色の雲から
滲む光は
あなたの瞳と似てた
送り出すふりして
甘いコロンを
一滴
ロマンティックなことは
言えないかわりに
焦がれて揺らして
私はね
フェイクルーザー
ツバメ
見上げた空の蒼
もつれあった電線は
いつまでも解けなくて
あなたと話したい
できないわたしが憎らしい
駅まで着くころには
優しく手をつないで
いつか夢に見たような
恋人同士になれたらいいのに
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
追憶のフェザー
サラサラなびく
髪の毛に手を伸ばしたら
舞い降りた羽みたいで
こわくなった
溶けて消えて
この時間も
幻だったとしたら
せめて
瞼の裏に刻んで
記憶の中だけでいいから
藍とガラス
なぜ君が
ここにいるのって
そんなの
お互い様でしょう
あなたが伸ばした手に
私が重なることは有り得ない
そんな運命だから
湿る空気に
聡明な夜
水溜まりに浮ぶ月
もうここへは
戻らない
ワトソン
あの瞬間は
まるで疑っていなかった
なんてそんなの
言い聞かせてるだけで
本当はね
気づいてたよ
だけど真実は変えられない
もし出会い直せるなら
何も知らないままの
貴方がいい
金曜の夜
ペンなんか回して
得意気に
椅子の裏へと
テンポよく靴の踵を
馬鹿みたいに
ぶつけながら話してた
その隣で呆れつつ
相槌を打つ瞬間も
嫌いじゃなかったの
あなたがご機嫌に
勧めて来るアーティストも
興味なんてなかった
YouTubeでチェックするのが
癖になっていたけどね
クレセント
キミがいない夏
微かにのこった
月の端っこも
花火大会が終わったあとの
夜闇の静けさも
撃ち落としてくれた
安物の景品も
溢れるほどにせつなくて
忘れられるはずもない
果敢に閉じた瞳の奥で
神様にお願いするの
誰かの隣にいるアナタが
もう二度と
私に恋する日が
来ませんように
涙に濡れる日が
来ませんように
fin d’un début
ある始まりの終わり