ダイヤモンドはきっといらない
心臓
この恋を
実らせるために
命が
いくつあっても
足りないだろう
冥界の淵で
与えられた柘榴に
かぶりついて
蘇りましょう
ねえ、
ガーネット
盲目的な陶酔を
どうぞ赦して
囁かれたら
きっと
心臓も差し出してしまうわ
滾る炎より
深く赤く
燃えるような恋
行くべき場所はないけれど
見目麗しく
生まれ落ちたなら
誰にも咎められずに
愛されるのでしょう
血の気に塗れた猛獣すら
躊躇いを覚えるほどの
気品あるものに
誰も憧れずには
いられない
アメシストの紫は
美しく生まれた者の誉れ
大切にされましょう
その言葉に
行くべき場所は
ないけれど
涙は海に還して
透明な身体に
海を宿して
人魚姫
月明かりが
あなたを
輝かせる時
アクアマリンの
祝福を
その主人公に
なれないのだとしても
誰かの幸せを
願うことこそ
幸福だと
思えるように
涙は
海に還して
不変の愛を渇望して
新緑が芽吹く
エメラルドの丘で
ふたり
誓い合えば
この絆は
確かなものになる
そんな
身勝手な想いが
風とともに
彼方へ
強くなり過ぎた
愛しさは
時として
憎しみに変わる
不変の愛を
渇望して
ひび割れた
ふたり
深緑の誓いは
あまりにも脆く
曖昧な色に口づけという罰を
七変化の恋が
あったとして
それは罪か
或いは妄言か
教えておくれ
アレキサンドライト
太陽に踊り
月光を謡う
どちらも愛してしまったら
止められないよ
雨雲の隙間から差す光や
昼と夜の間にきらめく鱗雲
それが
ありのままの姿だというのなら
曖昧な色に
口づけという
罰を
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
真も偽もなく
夏の太陽が
ショーケースに
飾られて
からり
ペリドットの
黄緑は
幻想の空模様
手の
届かない
場所にあるから
眩しいのだね
そこに
真も偽もなく
ただ
輝きが
人々の目を
奪うだけ
抗う力を密やかに
天啓があるとしたら
その命に従い
色を変えてゆく
コランダムは
与えられた色で
花咲くように
美しく
或いは紅く染まれた
サファイアも
海より深い
蒼色が
誇らしいのだ
抗う力を密やかに
宿して
生きている
世界は
混在でできている
ならば
誰かの悲鳴も
嘆きも
歓喜と祝福も
オパールが魅せる
乱反射
すべて等しく
けれど色を変えて
人生を彩る
それは
優しさか
それとも
儚さか
知る者はきっと
どこにもいないけれど
混沌とした世界で
確かに
生きているのだ
愛されるために愛しましょう
欲求の
根源はどこだ
底知れない人類の
好奇心が
トパーズを染めた
愛されるために
愛しましょう
詭弁
高らかに
毒を盛りつけて
胸元
鮮やかでしょう
苦しみながら
汚されながら
輝きを求めたのは
誰でしょう
浅はかに
追い求められたなら
答えは
あるのでしょうか
ダイヤモンドはきっといらない
わたしの
恋は
ターコイズ
なのか
ありふれたもの
だとしても
空のように
美しくありたい
たとえ
宝石箱に
おさまらない
代物でも
身に着けておくよ
ダイヤモンドは
きっと
いらない
fin d’un début
ある始まりの終わり