終わらせたいほどの幸福を紡ぐ
あなたが残る
最初にあなたを見たときの
樹木のような凛々しさを
自分の中でくだいて
混ぜて消化して
そうして残ったのが
あたたかい憧憬と
一握りの安堵
こぼれないように
あふれないように
静かにポケットにしまった感情
これらを人に見られたら
溶けてしまうと聞きました
この情緒の名前
まるで
本を読んでいるみたい
わたしの中から
言葉が溢れ出して
あなたの存在を形作る
不安定な芯には
ネモフィラの花びらを
あなたへ続く道には
ススキの穂を敷いて
この情緒に名前をつけたい
いつかあなたに辿り着きたい
一番空に近い葉
神様がもしいるのなら
これだけは聞いておこうと思う
ヒトはなぜ
飛べないのでしょうか
こんなにも長い手足があって
こんなにも発達した脳があって
なぜ自力では
飛べないのでしょうか
もしも飛ぶことができたなら
わたしはモミの木のてっぺんの
一番空に近い葉を
お守りとして折っておくのに
確固たる白さ
好きという気持ちは
赤やピンクで表されるけれど
わたしは純白だと思う
それも油断は許されない白さ
あっという間に染色されてしまう白さ
潔癖なほどの境界線を保つ白さ
他者には眩しい白さ
なかなか色付かない恋を
塗りつぶしてくれるほどの
そういう確固たる白さ
おかげで胸を張って歩ける
鮮烈な懐古
握ったはずの拳から
いつのまにこぼれ落ちたの?
あの冬の日の雪の結晶
うららかな春の木漏れ日
あなたの手の温もり
永遠の誓い
目に見えないそれらは
いつも形には残らず
音も立てずに消えてしまう
留まるのは鮮烈な懐古だけ
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
夜空の欠員
夜空の星を
等間隔に配置して
悲しいことがあったとき
骨を折るようにして落とす
深い意味なんてないのよ
星たちが落ちる
たったそれだけのこと
少し動けば
触れられる距離にあなたがいて
その髪に触れる理由を探してる
夜空の欠員なんかより
そっちのほうがよっぽど
重大で愛おしいこと
繋いでもいい手
世界には
何十億もの人がいるのに
繋いでもいい手は
ここにあるあなたのものだけ
うんと優しく聞こえた声に
朝の陽射しを送りたい
包むようなその眼差しに
夜の匂いを添えてみたい
わたしの隙間を
あなたの感情で埋めて
足りないところが
ないようにして
あなたのことを想うとき
あなたのことを想うとき
記憶は温度を伴って
あなたのことを想うとき
手のひらは期待を孕み
あなたのことを想うとき
窓外の景色は発光し
あなたのことを想うとき
指先は嫉妬で震えます
あなたのことを想うとき
円柱形の恋心
半透明の感情を
フラスコに入れると
水のように形を変えて
円柱形の恋心
とろりと揺れて
飛沫を立てて
あなたに注がれるのを
待ってる
いつだって足りないものは
叶うわけがないって
心のどこかで
あきらめたこと
終わらせたいほどの幸福を紡ぐ
幸福の先に見える消失に
押しつぶされそうな朝
あなたの優しさを
知れば知るほど怖くなる
あなたの愛を
受ければ受けるほど弱くなる
映画だったらここで終了
ハッピーエンド
でもそんな訳には
いかないから
わたしは今日も
終わらせたいほどの幸福を紡ぐ
fin d’un début
ある始まりの終わり