思い出を後にして
いつもの朝
彼はいつも
7時9分の電車に乗る
早起きして
朝食を作るわたし
眠たげな目をこする
バタバタと
準備をして
コーヒーを飲む
小さな駅の入り口で
また会う日まで
胸が苦しくなる
彼の気配が残る部屋に
冬の気配が迫る部屋に
静けさがやって来る
とても苦い
冷めたコーヒー
ワガママ
彼といるだけで
わたしはいいの
それなのに
もっと、もっと、もっと
彼に叱られるまで
増えていくワガママ
お願い
もっとそばにいて
彼のあたたかいまなざし
もう少しだけそばにいて
どうか嫌いにならないで
あなたが愛してくれるとき
わたしはわたしが
許せなくなる
すべて
彼の好きなところ
友達に聞かれた
答えられなかったのは
いくつもの好きで
胸がいっぱいだったから
「おはよう」と言う
彼の低い声
「好きだよ」と言う
彼のささやき
「おいしいね」と言う
彼の笑顔
あなたのすべてが
好きで、好きで、好きで
タカラモノ
あなたからもらう言葉
好きだよ
ずっと一緒にいるよ
そばにいるよ
離れずに
手を握って
愛してる
約束
バイバイ
また明日
さよなら
もうおやすみ
どんなに悲しい
言葉でも
あなたからもらう言葉
それだけでいいの
わたしの心のタカラモノ
涙
二人で
過ごす時間
バラ色に
満ちていく
でも
ふとした瞬間
不安になる
隣で眠る
あなたの寝息
わたしの頬を
涙がつたう
あなたへの
気持ちが溢れて
悲しくなるの
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
キラキラ
あなたの未来に
わたしがいますように
どうか
どうか
どうか
あなたが笑っていますように
わたしの未来に
あなたがいますように
いつか
いつか
いつか
二人で未来を描きたい
キラキラと輝く
未来のあなたに会えますように
そして
その隣にわたしがいますように
北沢川緑道
よく晴れた休日の
15時過ぎ
「散歩しよう」
彼は言った
北沢川緑道を
二人で歩く
あなたについて行けば
歩きなれた道も
違う風景に
変わってしまう
あなたの心と
歩いているから
どんなことだって
違う景色に
変わってしまうの
去年の冬
去年の冬
初めて手をつないだね
「寒いね」とあなたは
わたしの手を握った
あれから
いくつもの夜が過ぎ
今はもう
手をつなぐ理由も
いらなくなった
何も言わずにあなたは
わたしの手を握り
寒そうにしてる
「寒いね」のひとことが
はずかしそうに
去年の冬に
たたずんでいる
やさしい声
ケンカの理由は
些細なこと
月夜の街を
あてもなく歩く
気づいたら
あなたといつか訪れた
カランコエが咲く公園
この街のここかしこに
あなたとわたしが
刻まれているのね
どこへ行っても
忘れられるわけは
ないのね
あなたのやさしい声に
わたしは振り返った
思い出を後にして
あなたはわたしを
思い出にできる?
誕生日に贈った
シルバーリング
もう忘れているというのに
わたしはあなたを
思い出にできる?
オーダーメイドした
紺色の長財布
今も使っているというのに
いくつものすれ違い
温かい缶コーヒー
思い出を後にして
生きていくの
わたしはあなたと
生きていきたい
fin d’un début
ある始まりの終わり