聞こえない足音に今日も耳をすませる
寂しさに追いつけない
いつも思っていた
あなたの瞳はどこか遠く
フィルター越しのような鈍色
視線はわたしをすり抜けて
そこにあるものを
景色に同化させて
濃い色を重ねて
わざと見えなくしているような
そんな距離のある寂しさに
追いつけないと
いつもそう思っていたの
笑ってほしい
おかしいねって笑ってほしい
あなたのその残酷な無邪気さと
幼稚な甘さに
救われることもあるから
この猜疑心を
笑い飛ばしてほしい
ぬるいスープのような
優しい物足りなさに
赦されることもあるから
かなしみが喉に張り付いている
子犬が跳ねているみたいな寝癖
勲章のように光る
運動靴の汚れ
たった少しの好きを
幾重にも重ねて
毎晩大切に磨いていた
あなたといるときの
浮かれた自分が好きだった
あなたを大切に想ったまま
100年が過ぎるはずなのに
いつからだろう
もうずっと
息を塞ぐようにして
かなしみが喉に張り付いている
あなたが笑わなかった日
ぼやけている
ぼやけている、と思っていた
水に溶けたような曖昧さで
じんわりと滲む程度の心
だいじょうぶ
だいじょうぶ、と
言い聞かせて
それなのにあの日
あなたが笑わなかった日
ぼやけていたはずの輪郭が
痛みに縁取られた
はっきりと見えたのは
突き刺すような
絶望の形
わたしだけがいつも
通り抜けていく視線に
乾いた笑い声に
戸惑う指先に
少しずつ傷付いていたの
知らないでしょう
血が出るほど深くはなくて
けれど確実に跡が残る
そういう痛みを抱えていたこと
知らないでしょう
あなたが知ろうとしない
その領域の中で
わたしだけがいつも
もがき苦しんでいた
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
ずるい駆け引き
誰かが発したSOSが
陽気な音に掻き消される
短く低い返事が
道路に充満する
あなたの笑顔が見たい
あなたの手を握りたい
最後の願いだと言って
ずるい駆け引き
あなたは笑って
手を差し出して
これは自分がしたかったからだと
小さなキスをしてくれた
約束をするために
友達に戻ろう
わたしたちが共有してきた
幸福や喜びや興奮なんかが
なくなるわけではないから
友達に戻ろう
今までもこれからも
くだらないことで
笑いあえたらそれでいいから
友達に戻ろう
手を伸ばしたら届く距離でも
もうお互いには決して触れないと
そう固く約束するために
聞こえない足音に今日も耳をすませる
オレンジに煌めく空
恨むように見つめて
あなたの足音を思い出す
期待をはらんだ軽快さ
踏まれて弾かれる小石
聞き逃したことは
一度もなかったはずなのに
思い出は音から消えていく
聞こえない足音に
今日も耳をすませる
寂しいと口に出せないくらい
2人の間に
どれほどの距離があるか
どれほどの時間があるか
自分たちでもわからないような
熱の残量を
悲しみの度合いを
すべて吸収してくれたポプラ並木
明るい黄緑を誇りながら
髪をすく風
濃淡のある香り
すうと深呼吸をして
やっと気が付いた
寂しいと口に出せないくらい
ずっと寂しかったこと
あなたの幸福
あなたとの距離感をリセットして
あなたに傷付いていた自分に
優しくしようと決めたの
だからあなたも
自分自身に優しく
そして大切にしてください
温かい平穏をわたしに
それ以上の幸福をあなたに
fin d’un début
ある始まりの終わり