恋焦がれる微熱
悲しい顔
文庫カバーの若草色が
不健全な遊びを許してくれるなら
春風が通り抜ける
廊下の静けさに
りん、と胸の鳴る
ブレザーとスーツ
困ったような笑みが
いつも通りなのは
少し寂しくて
大人にも
泣きたい時はあるでしょう
だから
わたしにだけ
悲しい顔をして
数式
黒板消しが産み損ねた
白と黄色の魚たちは
難解な数式の下で
仲睦まじい
あれすらキスと呼ぶのなら
うっとりなんてしないのに
退屈な今日も
あなたがいればいいだなんて
そんな風に思える時が
わたしにも来るのだろうか
数式が消されて
魚たちも離ればなれ
求愛行動
スカートが
「咲くように生きなさい」と
急かしているみたいで
苦手だった
あるいは
わたしにはそう
見えていたのかもしれない
まぶしくて
大きな花びらが
踊っているような
求愛行動
わたしにはそう
咲くように胸の内が
愛おしくて
苦しいのに
わがまま
水になれば
わたしは泣かなくてもいいし
茜色の雲も
紺碧の夜も
映してあげる
あなたは安らかに
眠ればいいし
凪いだ朝に
わたしは穏やかでいられる
どれもこれも
ただのわがままだから
せめてひとつだけ
叶えてください
胸の中
蝉の声は
わたしの頭の中
埋められるだけ
埋めてほしくて
カーテンを開けたら
太陽はありのままで
青春という言葉が
架空のものだったらいいのに
心臓の鼓動さえ
打ち消すような
夏虫の音色
わたしの胸の中
狂おしいほど
あなた
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
あなたがいるから
言葉にするなら
わたしは恋をしている
認めてしまえば
簡単な話なのに
そんな安っぽい一文に
そんなありふれた一行に
してしまうのが
もったいなくて
わたしだけなら
どんなに陳腐なものでも
どんなに浅はかなものでも
ちゃんと許せるのにな
あなたがいるから
飾り付けたくなる
心臓
秘め事は
甘美な味がするという
わたしの心臓は
さぞかし美味しかろう
できることなら
あなたに
差し出してしまいたい
余すことなく
食べ尽くしてほしいだなんて
とても言えないけれど
冬の風
神様なんていないって
唯物論者ぶったりして
叶わないことを
何かのせいにしたいんだ
ポインセチアの赤が
眼に刺さるよう
もしも祝福が
誰しも訪れるものなら
あなたに贈りたかった
わたしの頬をかすめてゆく
つんとした冬の風
最後の1ページ
わたしのすべてを捧げたって
世界は騙せない
だから
胸の中で暖め続けたものは
いつか孵さなきゃ
思えば思うほど
逃したタイミングが増えてゆく
結果論で片付けられたなら
そんなに惨めじゃないかな
最後の1ページ
まだ栞をはさんでいたいな
さよならは届けない
さようなら
別れの言葉を
云えるのは
幸せなことだって
わかったつもりでいたけれど
このまま
さようなら
本当に幸せかなんて
わからないままなんだ
ていねいに
ていねいに包まれた
わたしの想いは
綺麗な形を遺したまま
あなたには
届けない
届けてやるもんか
fin d’un début
ある始まりの終わり