胸の中に息づく今日
後ろ姿
曖昧なこの時間を
切り取るために
わたしの人差し指は
ゆっくりと
あなたの影をなぞる
夕焼け
離れてゆけば
その形は伸びて
別れを惜しむように
まだわたしの足下
ゆっくりと
あなたの影をなぞる
その後ろ姿を
引き止めたくて
ほんの一部
待ち合わせはいつも
わたしが見つけてもらう方で
喫茶店に入った時は
わたしが頼むのを待たせる方で
可愛いカチューシャを見つけたら
わたしが遠慮するのをわかっていて
けれどそれは
わたしが愛されていることの
ほんの一部だって
思いたいだけ
苦み
わたしの知らない味を
あなたは知っている
くゆらせた煙草と
砂糖もミルクもないコーヒー
誘うということ
適度な愛し方も
あなたが美味というのなら
わたしは知らなくても
愛されていられるかな
この苦みを美味というのなら
わたしは愛していられるかな
夢中になる
遊び、というものに
危うさを孕むだなんて
空想の話だと思っていたのに
首筋が熱くなるほど
わたしらしさを失うほど
春のうららか
くらくらしちゃうや
あなたの腕の中
遊び、というものに
夢中になるだなんて
あなたの望む姿
この世の不条理を
全て集めたって
わたしの胸に渦巻く
混沌には敵わない
陸の人魚姫
蛙のままの王子様
翼をもがれた天使
わたしはあなたの望む姿になろう
身も骨もみんな捧げて
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
わたしの手
わたしの背伸びに気づかないまま
あなたの歩幅は変わらない
繋いだ手は
本当にわたしのものなのか
あなたにも
わたしにもわからないのだ
街は人の群れ
しっかりと握っていたくて
放さないようにすればするほど
わたしの手は
あなたのものになる
何もない今日
誰のものでもない今日が来て
わたしは胸いっぱいに
息を吸った
この苦しさを吐き出すために
どのくらいの空気が
必要なのか
誰のものでもない今日はまだ
わたしのためのものじゃないから
深呼吸が
架空のあなたを美しくするような
何もない今日を
ブラックコーヒー
素っ気ない言葉が
きっと好きだった
わたしの喉からは
そういうものしか
出てこないから
あなたの口数が減って
わたしはカフェオレに砂糖を解いた
この気持ちを
うまく伝えられないから
あなたも素っ気なく
ブラックコーヒーを飲む
秒針と鼓動
時計の針が急かす
秒針と鼓動が重なり
何か言わなくちゃ
あなたもそう思っているの
夕焼け
わたしは愛されているの
伸びる影を
なぞることもせずに
時間は過ぎてゆく
子どもはもう帰らなきゃ
明日もその先も
遊んでいようねって約束をして
わたしとあなたは
どうして黙っているの
夕闇の向こう
火遊びはいけないこと
誰かが忘れていったライターに
どうしてだか
魅かれるものがあって
わたしの知らない遊びは
どんなふうに始まるのだろう
好奇心に負けて
わたしは便箋に火をつけた
燃えてゆく紙片が
風に舞って
はらはら
こんなふうに終わるのだろう
わたしの知らない遊びが
いつの間にか
夕闇の向こう
fin d’un début
ある始まりの終わり