悲しく胸が痛むこと
紙を裂くように
気づきたくない
あなたの存在が少しずつ
本当に少しずつ
紙を裂くように静かに
そして確かに
わたしを傷付けているということ
胸が痛むこと
知られたくない
あなたといると本当は
悲しく胸が痛むこと
雪が降りつもるように
しんしんと
冷たく激しく痛むこと
言葉の代わりに
「寒いね」
あなたの言葉が海に落ちる
「寒いね」
わたしも同じように落とす
遠い水平線に
寂しそうに浮かぶ船
青からオレンジへと
変化していく空
呼応するようにして
グラデーションしていく感情
視線を落として
白妙の砂浜に足跡を付けて
「寒いね」
うつむきながら
決して言えない言葉の代わりに
わがまま
どこからやり直せばいいだろう
噛み合わない歯車は
今もぎこちなく回っている
正しいことだと
信じ切って
少しのすれ違いを
ないものにした
お互いの歩幅を
お互いのスピードを
合わせることができなくて
未熟さを理由に
ただわがままに
わたしはあなたを
あなたはわたしを
今も置いてけぼりにしている
心の重し
眉を下げて
仕方がなさそうに笑う
その笑顔が好きだった
遠くを見るときの
眩しそうな表情も好きだった
干したお布団みたいな匂いも
はねた前髪も全部
ここから気持ちが浮いてしまうなんて
考えたこともなかった
誰か探してほしい
心の重しになるものを
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
いちぬけた
お気に入りの場所
お気に入りのジーンズ
甘いミルクティーに
ランボーの詩集
いつもと変わらない
穏やかな日常から
重たい一歩を踏み出して
いちぬけたのは
あなた
悲しそうな顔
海の中で
もがいているような感覚
手も足も重くて
前に進めなくて
苦しくて冷たくて
でも
そんなのはずるいこと
わたしに別れを告げた
あなたのほうが
ずっと
ずっと
悲しそうな顔をしている
大人になりたい
合わない歯車が
心臓に刺さる
2人でいると
苦しくなるばかり
それなのに
1人きりで見る海は
こんなにも味気ない
蒼白の海
時間が解決と言うならば
今すぐ大人になりたい
誰よりも早く
うんとしたたかな
大人になりたい
言葉
いつか本で見た
カノーヴァの彫刻
なめらかな曲線に
艶やかな表現に
感情を揺さぶられた
それに似た強い憧憬を
あなたにも感じていた
伝えきれなかった想いが
紡げなかった言葉が
発したそれぞれの言葉よりも
美しく残るのは
どうしてだろう
今になって涙が溢れる
過去に戻りたいわけじゃないのに
嘘でも
読みさしのまま
返された文庫本
クスノキの影が落ちて
ここからまた物語が
始まるかのような
きれいな光景に見えた
「ありがとう」
風が吹いて
あなたの香りがして
ほとんど反射的に
涙が溢れた
油断がまねく結末に
ハッピーエンドはない
笑おう
今日は嘘でも
明日も嘘でも
fin d’un début
ある始まりの終わり