過ぎてゆく隣
かくれんぼ
いつでもあなたは
見つけてくれた
毛布の中
クローゼットの隅
学習机の下
どこにいたって
私を
見つけてくれたね
あなたは
覚えているというけれど
私は
今もまだ
続けているのよ
気づかれないように
かくれんぼ
愛しいもの
幼い手のひらに
キャンディーひとつ
それだけで
飛び上がるほど
嬉しかった
あなたからもらう
小さなプレゼントの
ひとつひとつが
私にとっては
何もかも特別で
愛しいもの
今も
変わらないよ
口に含ませたのは
柑橘の香り
空を失くして
初めて地下鉄に乗った
空を失くして
戸惑う私を
あなたはからかった
怒ったふりをして
少しだけ
不安になる
私の知らないあなたと
はぐれないように
手を繋ぐ
あなたの知らない私に
なっていたら
ちょっと怖いな
かすかに
震える指先は
速度計の針みたいに
目的地はまだ遠く
流行曲が
街に奏でられて
人は足早
飲み込まれそうな
スクランブル交差点
忙しない日常が
当たり前になってしまった
あなたの歩みも
私を
置いてゆきそうなくらい
何度も
振り返ってくれるのは
昔からだったかな
それとも
私のためじゃないのなら
悔しがればいいのかな
目的地はまだ
遠く
恋する乙女
甘い物ばかりを
舌にのせていたい
午後三時
今日だけは
許してください
願いかけるほど
大したことではないけれど
私の隅々まで
もっと
もっと甘くして
うんと甘くして
そこに
ショートケーキの苺をのせて
酸味を少し加えたら
恋する乙女の
出来上がり
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
冷たい風
あなたにふさわしく
変身する
魔法を
誰でもない
あなたにかけて
もらうんだ
ドレスじゃなくたって
ティアラもなくたって
私が望まなくたって
あなたがかけてくれる
魔法で
私は
あなたの
お姫様になる
冷たい風が
そうさせたんだから
きらきら
都会の夜が
まぶしいことを
目の当たりにして
くらくら
あなたの暮らす日常を
平常心でいられない
私がまだ
子どもだというなら
少しくらい
思い切ってみても
あなたは
受け止めてくれるかな
綺麗だねって
きっと私に
向けた言葉じゃ
ないけれど
綺麗だねって
繰り返すのは
あなたに向けた
きらきら
私はどこに行けばいいの
今日が終わらなければ
ずっと
夢見心地
夕空は
ずっと続いていて
あなたは
ここにいたんだね
私は
どこに行けばいいの
教えてほしいわけじゃなくて
永遠という
便利な記号を
刻み付けてほしくて
裾を引っ張る
いじらしいでしょう
今日だけは
私だけ見ていて
またね
またね
小さい頃に言った
あれは
約束
またね
何度でも
言いたいけれど
もう言いたくないな
またね
どうしたって
胸につっかえるんだ
だけど
私は必ず
守るからね
約束
またね
過ぎてゆく隣
懐かしい香りが
ずっと
そばにあること
離れてから
気づいてしまうの
私の隣
あなたの隣
そこにあるのは
熱を帯びた何か
もう一度
離れてしまえば
気づかされるのだろう
二度とない夜を
過ぎてゆく
私の隣
あなたの隣
fin d’un début
ある始まりの終わり