多分わたしは涙だった
光
夜空は気まぐれ
窓を見上げる
わたしは祈ってる
特別な明日に
世界を奏でる雫に
煌めく星の光に
遠ざかる雨音に
一億光年の
願いを込めて
夜はゆっくりと
光を連れて来る
時計
時間が止まったのを感じた
つまらない時
ゆっくりと進む
針の音だけの世界
その時
微かに優しく
低い声が響いて
世界から音が消えた
そうしてすぐに時計は動く
針の音が少し高く
少し早く
世界は進んでいた
わたしは止まったまま
あの一瞬を止めたまま
冷たい空の下
お気に入りのマグカップ
冷たい手
ミルクで満たして
白く染める
はちみつを溶かして
カップで溶け合う
冷たい空の下
温めた
はちみつミルク
胸を温める
ほんのり苦く
ずっと甘い
つないだ手の温かさ
恋の味
一日が始まる
さかさまの世界は
ほんの少し変わって見える
飾られた風景画
広がるいつもの朝の景色
遠くに音が
聞こえてくる
スッと目の前が
白く透明に
そうしてギュッと
閉じた目蓋の裏
見えた世界を閉じ込めて
開いた世界は
思っていたより
眩しくて鮮やかで
一日が始まる
閉じた目蓋に残ったあの世界を
残しながら
丘の上の赤い屋根
胸に響く歌
赤い屋根の家
春の日差しの中
そよ風を感じて
走る朝
眼に映るのは
太陽の下
ライム色の丘
リンゴ色の家
甘酸っぱい気持ちで
どこまでも
駆けてゆく
あの丘まで
飛んでゆく
あの屋根の上
もう何も
怖くない
夢のランドスケープ
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
さよならした人
澄み渡る青空
白い太陽
向こうに見える草原
空に消える飛行機
わたしのいつもの世界
世界に残った
ひこうき雲が
雨のキザシと知って
さよならした人の
残した涙と思って
雨を待って
晴れを待った
ひこうき雲を
わたしは今日も探す
いつもの眩しい空を見て
あの日の熱
あの日
指が熱かったのを
覚えてる?
指の熱が心を
温めるのを感じた
熱に浮かされたわたしに届いた
柔らかな音
音と指を頼りに
向かった先は
たぶん
霧の国で
気づけば
何も見えない
今もわたしは霧の中
あの日の熱を探している
今はもう
暗闇の中
アダージョ
道は続いていた
見えた景色は黒色
息の音が
身体について
動けない
空から一つの音色
鍵盤の音
音楽室から届く
ピアノの音
ふと見上げた空は眩しくて
わたしはきっと光ってた
アダージョ
ゆるやかに
音のまま
ゆっくりと
身体は動いてゆく
呼吸はきっと止まってて
やっと吐いた呼吸は
ゆっくりとゴールの外に
届いてた
きっと音楽室まで
わたしだけの特別
白い色
赤い色
青い色
パステルカラーが
わたしの全部
中はどれもが真っ白で
これからわたしに染めてゆく
溢れる気持ちは
空に溶けてく
溶けないようにとかき集めて
薄ピンクのノートは
あなた色
あなたがたくさん
わたしにくれた
わたしだけの特別
涙だった
真っ白なブラウス
ゆっくりと袖を通して
いつもよりちょっと
長いスカート
髪のシュシュ
ブレザーに咲いた花
ちょっと短い道
全部が微笑みで
わたしは泣いていた
溢れる涙が
笑顔だった
多分わたしは
涙だった
桜はきっと
微笑んでいた
fin d’un début
ある始まりの終わり