水曜日、午後3時に
静寂と陽だまりと
遠くでコソコソ
ささやきが漏れきて
眠たくなるような
ページをめくるリズム
それはきっと
細く長い繊細な指先
かれこれ5回目のダンテは
一向に進まず
誰からも見えないここは
特等席
彼の気配を感じる
水曜午後の特等席
ソールは不機嫌
どうやらソールはご機嫌斜め
朝から反抗して出てこない
どんより雲が覆っているのに
ソールのせいで彼は来ない
法則が示す答えは
「今日もつまらない1日」
それもこれもソールのせい
気ままで自分勝手なソールのせい
デキソコナイのデキること
おままごとは
一人じゃないと楽しくなくて
真っ白な画用紙に
ただ途方にくれて
「みんなと同じように」
いつから気にするようになったんだろう
プラタナスの木漏れ日に身をゆだね
心地よい重みを手のひらで受ければ
欠陥品だなんて遠くの向こうに
忘れたころに感じる気配
彼も同じだったらいいのに
ハイヒールでつま先立ち
5本のフレームコレクションは
立てかけたル・コルビュジエと
壁際のオブジェ
悩ましいのは
ちょっとわがままなラグドール
ハチミツたっぷりのホットミルクと
深夜の戯れ
文庫本とマティーニを気取っても
ディオールのティントで
ちょっと背伸びしても
隣りのスツールはまだ無人
メガネ男子
からまって
がんじがらめにして
投げ捨てて
瞳の色をのぞき込んで
後悔を知る
そんな目で見つめないで
その瞳を向けないで
わかってしまうから
わたしが醜いって
わかってしまうから
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
Girls be…
大きく振り上げた脚は
跳ねるように階段を上がった
セーラー服の裾が
風にひらりと揺れて
宙に浮いた体は軽く空気を割った
軽やかに駆け上がったのは
思い過ごし
いつだって独りよがり
薄れる背中を見詰めるだけ
彼とコーヒー
香ばしく漂ったのは
駅前のフレンチロースト
眉根が寄ってしまったのは
ジャケットから覗く箱のせい
シャドールに気づいた日は
世界から音が消えた
見知らぬ誰かの香りが
まとわりついて離れない
しかめっ面で
同じブラックを今日もすする
オトシモノ
口にする勇気なんて
どこかに落としてしまった
小指の深爪
馬鹿なわたしは繰り返して
いつしか慣れてしまった痛みも
痛いことには変わりなくて
たった一言
口にすることはできなくて
澱んで溜まって動けない
どこかで失くしてしまったから
彼に巡る物語
偉そうな金のカリグラフィーを
そっと指でなぞってみる
あるはずのない温もりを求めて
なぐさめるように優しく
特等席は役目を失くして
陽だまりの中ひとりぼっち
さまよう指先はためらいがちに
今日もページをめくる
彼のいないWednesday
水曜日、午後3時に
フレンチシックに合わせた
白のオペラシューズ
けだるい体を捻じ込んで
今日もルーティン
「いつもの」はまだ
口にできず
なめらかなオーダーは
決まってフレンチロースト
幾度も星が巡って
馴染んだ香りを連れて
伊達メガネの先に広がるのは
偉そうに重く構える戯曲
ここでいつも待ってる
戻ってくるのを待ってる
わたしと彼と同じ
ガラクタが見つけるのを待ってる
fin d’un début
ある始まりの終わり