同じくらいの優しさ
夕焼けのせい
夕焼けが反射する図書室
誰も居ない空間は
あなたと私のために
作られているみたい
涼しくて清潔で
夏の夜みたいな独特の香り
ここで好きって言ったら
どんな顔するだろう
あなたの目が赤く見えるのは
夕焼けのせい
たった一人の掌
新しいシューズ
新しいペン
それでも満たされないなんて
よくばりだなと思う
どんなに願っても
なかなか手に入れられない
本当に必要としているのは
たった一人の掌
あなたの掌
青を掲げる
空の青と
海の青は
少し違う
そう言いながら
絵の具を混ぜる姿を
焼き付けるように見つめた
母なる海というくらいだし
少しくらいは私にも
青が入っていると思うよ
あなたはその言葉に笑って
誇るように
また青を掲げた
後世に残したい
校庭を駆けるあなたの
日焼けした脚
夏の樹のように
活発な笑い声
強い日差しを受けて
ぐんぐんと風を切る髪
あなたを形作る全てが
映画みたいに完璧で
あぁ、この瞬間を絵に描いて
後世に残したい
この想いが届かなくても
この想いが届かなくても
星は夜の配置につく
世界になんの変化もなくて
ありふれた日常が
また淡々と巡ってくる
そう思うと少しおかしくて
小さく息が漏れた
悲しいんじゃなくて
寂しいのでもなくて
その途方もなさに
目が回るだけ
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
始まりの色
シャガールの絵みたいな
幻想的な恋をしていた
淡さと
鈍さと
相反する孤独
白い素朴な壁にかけられた
その絵画を見て
いつも私は
始まりの色を探していた
あなたの手で終わらせて
瞼を閉じた暗闇の先
浮かび上がってきたあなたが
楽しそうに首を傾げる
アルタイルの話をしよう
ベテルギウスは知っているかな
あなたに合う星の名前を
いくつか考えていたのに
気が付けば夢の中
空想の宇宙旅行を
あなたの手で終わらせて
あなたの手を握らせて
果てない余白
ノートに書いた「愛」の文字が
白紙の空を駆け出して
馬のようにも
鹿のようにも
気高い山羊のようにも見える
音も出さずに
とても静かに
果てない余白を駆け回ってる
どうか100年後に届けて
校庭の隅に
ひっそりと佇む大木
両手を広げて
私を迎え入れてくれる
こすれる葉っぱに
蒼風を受けて揺れる影
このたくましい木に
言葉をひとつ
聞かせてあげる
どうか100年後に届けて
同じくらいの優しさ
窓から見えるサクラ
風に運ばれる純白の雲
しゃらんと音を立てて揺れる
薄黄色のループカーテン
この気持ちのいい午後を
どうにか丸めて
ポケットに詰めて
あなたに届けられたらいいのに
優しいあなたには
同じくらいの優しさをあげたいから
fin d’un début
ある始まりの終わり