デジャヴュと恋の境界線
朝日のまぶしさと 電車に揺らされて 心惑わされた あの人は 一つ前の駅で降りてゆく 扉が開く時 気のせいかもしれないけれど 微笑みが見えて どこか この世にない場所へ 去って行ってしまうような 怖さが胸に込み上げる 気のせいかもしれないけれど 心音と 車輪の音が重なって
恋の始まりと、恋の終わり。終わらない始まりと、ある始まりの終わり。
それが恋愛詩集です。
恋が叶っても、恋が叶わなくても、それは世界でたったひとつの物語。
恋する気持ちが終わることはありません。
あなたの勇気が、一かけらの今を、切ない恋の詩を彩ります。
朝日のまぶしさと 電車に揺らされて 心惑わされた あの人は 一つ前の駅で降りてゆく 扉が開く時 気のせいかもしれないけれど 微笑みが見えて どこか この世にない場所へ 去って行ってしまうような 怖さが胸に込み上げる 気のせいかもしれないけれど 心音と 車輪の音が重なって
あなたと 一緒になった帰り路 横断歩道の真ん中 シャツの袖口 そっとつかんで 「もう少し一緒にいたい」 何を言っているのだろう 心臓が破裂しそうで 一瞬がこんなにも長く感じるなんて あなたはやさしく微笑む 「また明日」 横断歩道を渡っていく 背中を見送った 横断歩道から横断歩道までの たった100メートル それがここにある わたしのすべて
星が 眠り始めるころ わたしは おぼろげな夢を見る もうすぐ迫る 暁紅は 鋭い光で まぶたを叩くだろう だけどもう少しだけ 待っていて 今はまだ あの人との思い出が 残っているから たとえそれが 朝には消える 運命だとしても
新宿駅で見つけた 鎌倉行きの文字 まばらに車内に乗った人は これから何処かに 帰るのだろうか 気づけば潮の 匂いの中に 佇んでいた 道しるべは 遠い三日月 帰る場所を失った鳥は 果てない空の下で 震えている 二十三時四十五分 貴方への遺言
あなたの影が 伸びていく でもわたしには 届かない いつか願いが叶うのなら あなたの背中に 追いつけるような わたしになりたい あなたの恋人に なれないのなら あなたの指先に あなたのぬくもりに わたしはなりたい あなたに もう2度と 会えないのなら
あのころ またいつか 会えると信じていた 今はもう 永遠に 会えないと知ってる あなたの腕の中 ひとつになった さよならはしなかった あなたはいつまでも わたしの胸の中 あなたはいつまでも わたしの胸の中
まぶたの上に手をかざして 地平線を見やれば 海のようにさざめく 広大な麦畑 サンダルを脱いで 時計を外して あなたの手だけを 大切に握りしめる 目が合えば微笑むこと 手を握れば温かいこと それだけのことが こんなにも胸を打つなんて 教えてくれたのは 隣で優しく笑うひと
あなたが いなくなった部屋 あなたが 置いて行った たくさんの物たち せめて 全部 捨てていいよって 言ってほしかった そうしたら この部屋は もう少しだけ 明るくなるのに 月虹の夜 薄く 七色の光が 窓から差し込む その光に 窓辺の花が揺れた
オレンジに煌めく空 恨むように見つめて あなたの足音を思い出す 期待をはらんだ軽快さ 踏まれて弾かれる小石 聞き逃したことは 一度もなかったはずなのに 思い出は音から消えていく 聞こえない足音に 今日も耳をすませる
どうしたらあなたが 喜んでくれるのかわからなくて どうしたらあなたが 笑ってくれるのかわからなくて 涙も暮れきる夕暮れの 図書室の隅に別れ来て つくづく寂しいわたしの心 あなたの心に寄り添へば いつか心も晴れるでしょうね 誰も知らない星が出てゐる