ただあなたを捕まえたいだけ
スナイパー
人差し指と親指を
あわせて
つくる
三角窓の向こう
わたしには見えて
あなたには見えない
もの
暴かれないように
ひっそりと
照準を定めて
瞳の
きらきら
世界の
ばらばら
引き金にかける指は
ないというの
優柔不断な
スナイパーだ
消えないもの
イヤフォンからは
コードが消えて
街からは
雑踏が消えた
流行りだからと
聴く音楽の
良さのひとつも
わからないけれど
誰も彼もが
繋がれた世の中で
わたしでいられるように
あなたでいられるように
消えないものを手に入れるのは
容易いことでは
ないけれど
なんだっていいよ
あなたは
胡椒の粒を
噛んだことがある
という
あれを味覚と呼ぶべきか
そんな議題を
アイスティーに
ガムシロップを溶かしながら
天文学者のような口ぶりで
問いかけている
わたしは
その広大な
宇宙の果てに
甘ったるい脳が
弾けるほどの
刺激的な
あなたが
いてくれたら
なんだっていいよ
あなたが生まれた
電子の海から
生命が
産まれくるのを
怖いな、と
あなたに言えば
誕生の瞬間は
いつだって
恐怖を孕んでいるよ、と
涼しい顔で
知ったかぶり
あなたが生まれた
その恐怖は
いつか
この世を滅ぼすかもね
火傷
夜更けに通知音
アロエは火傷に効かないんだよ、と
メッセージは怪文書
あなたが突然
一方的に植え付けてくる
豆知識を
肌に塗り込めながら
美容にはいいんだよ、と
送り返してみれば
黙り込むスマートフォン
わたしたちは
好き勝手な
コミュニケーションを
夜な夜な
電波に乗せて
火傷する
どうせなら
治し方まで教えてよ
Journey in to Chapter II
第2章へ続く
Chapter II
一つの光景
捕食
巨大な蜘蛛の巣に
囚われてしまったよ
綺麗な羽も
麗しい四肢も
一切をもがれて
そうして
身動きひとつ
できなくなって
はじめて
捕食されるにふさわしい
だとしたら
わたしは始めから
食べられてもいいように
つくられていたよ
誰にも
もちろん
あなたにも
気付かれないようにね
命の前借り
カフェインとアルギニン
多分に含んだ
黄色の炭酸水を
好んでいる
あなたの舌は
とてもじゃないけど
信用ならない
いつの日か
わたしを
砂糖にして
躊躇わず
飲み干してしまう
命を前借りして
恋をしましょう、と
伝えられたなら
そのための
エネルギーなのだなあ、なんて
スリルすら泡沫
迎撃注意
頭上に
ヒントのマークでも
出ていればいいのに
現実世界は
五感がすべて
わたしの第六感は
頼りがいもなく
不意打ちにあえば
為す術もなく
あなたなら尚更
スリルすら
泡沫
光の明滅は
たぶん気のせいだけれど
これがゲームなら
コンティニューか
デッドエンドか
空想遊戯
合理的なプログラムの上に
わたしは
立っているのだろうか
だとしたら
エラーの繰り返しが
さも正解のように
提示されている
日々の最中を
あなたは
リブートするだろうか
空想遊戯
間違えることこそ
至高の遊びだと
諭されているみたい
でも
いつか終わりは
来るのだよ
ハロー、ワールド
そして
おやすみなさい
ただあなたを捕まえたいだけ
光の中へ
わたしたちは往く
科学の進歩も
文化の発展も
関係ないね
前時代的な恋を
したいだけ
そのために
わたしは巣をつくり
あなたを捕まえる
超古代の叡智かもね
寡黙なスナイパーは
わたしには向いていない
蠱惑のスパイダー
柄でもないけれど
もしかしたら
現代的かもね
ただ
あなたを
捕まえたいだけ
fin d’un début
ある始まりの終わり